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第63話 光

 何も考えない。そう決めたエミリオはもう一度眠ってしまおうと目を閉じた。眠ればきっと、心の傷も回復する。それから先のことはもう少し気力が湧いてからでいいだろう。すべて忘れて、今はただ休みたい。  毛布にくるまってひたすら無になろうとした矢先、部屋をノックする音が聞こえた。 「エミリオ、入るよ」  神父の声がして、丸くなっていたエミリオは身体を起こした。静かにドアが開いて、心配そうな顔をしている神父と目が合った。 「すまない、起こしてしまったかな」 「いえ。さっき目が覚めちゃって」 「そうか……気分はどうだい? 図書館にはちゃんと休館の張り紙をしておいたよ」  ベッドのそばの椅子に腰掛けて、神父は微笑んでエミリオを見つめた。  その眼差しにあたたかい優しさを感じて、いたたまれない気持ちになってしまう。エミリオがウィズリーに襲われているところを見て、神父は一体どんな気持ちになっただろうか。  詳しいことを尋ねてこないのは、きっと神父の優しさなのだろう。思い出すのも辛いだろうと気を遣ってくれているに違いない。 「……ありがとうございます。神父様のおかげでだいぶ身体が休まりました」 「そうか、それはよかった。そういえば図書館の前でジェスくんに会ったよ」  どくんと心臓が高鳴って、エミリオは顔を上げた。急に図書館を休館にしてしまっては心配をかけているだろう。 「お前は風邪をひいて寝込んでいると伝えたよ。あまり人に会いたくないだろうから、見舞いも遠慮しておいた。……勝手なことをしてしまったかな」  神父の言葉に、少しだけホッとする自分がいた。会いたいと思ったけれど、いざ会ったらきっと動揺してしまう。ウィズリーのことを伝えるべきか否か。まだ答えが出せずにいるからだ。 「ジェスくんは優しいね。とても心配そうにしていたよ」 「……嬉しいです。そんなふうに思ってもらえて」 「なんだか、随分複雑そうな顔をしているね。見舞いに来てもらったほうが元気が出たかな」 「っ……いえ、それは」  顔を上げてエミリオは首を振った。けれど、そこから何も言葉を紡げなくなって俯く。  その様子に、神父は頷きながらエミリオの手を取った。 「何か、私にできることはないかい? なんでも言ってほしい。お前が幸せになることが私の願いだからね」 「神父様……」 「私はお前のすべてを受け入れるよ」  エミリオの様子がおかしいことに気づいてしまった神父は、すべてを包み込む笑顔を向けてそう言った。  神父のあたたかな笑顔に、小さな頃何度も救われた。今も、頼っていいのだろうか。もしかして、何もかもを察してそう言ってくれているのだろうか。  不安の中に一筋の光が見えた気がした。たとえ親代わりの神父に全てを話すことができなくても、ただその存在があるだけで心強かった。 「お前はひとりじゃない。いいね?」  神父の手を握り返して、震える声でエミリオは「ありがとうございます」と伝えた。

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