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第64話 来訪者
寝ていたはずのエミリオが部屋から出てきたことに気づいた子どもたちは、すぐに駆け寄ってきて口々に「だいじょうぶ?」「もうげんきになった?」と心配そうな声を上げた。
子どもたちを見守るようにテーブルの端で書きものをしていた神父が、微笑みながらこちらを見ている。
「横になっていなくていいのかい?」
「……はい。ずっと横になっているより、起きていたほうが気分が晴れるかなと思って」
「じゃあ、子どもたちと一緒に遊んでやってくれないか。私は片付けないといけない仕事があるんでね」
「わかりました」
エミリオが元気になったと理解した子どもたちは、自分達がお絵かきをしていたテーブルまでエミリオを連れて行った。服の裾を引っ張られ、はやくはやくと急かされる。
「お花、いっぱいかいてるの」
「きょうかいのまわりに、いっぱいさいてるんだよ」
色とりどりの花が画用紙にたくさん描かれている。四人の子どもたちのうち、一番年上の男の子は本で顔の半分を隠しながらちらちらエミリオを見ている。人見知りなのだろうか。微笑み返すと慌てて書いてある文字に目を落とした。
あとの子たちはみんな幼くて、女の子がふたりに男の子がひとり。みんな楽しそうにクレヨンで思い思いの花を描いている。
テーブルの周りにはさっきまで遊んでいたのか、くまやうさぎのぬいぐるみがころころと転がっていた。
「すごいな、みんな上手だね。きれいなお花がいっぱい」
女の子の頭を撫でてやると、誇らしげに胸を張ってさらに新しい花を描き始めた。
楽しそうに遊ぶ子どもたちと一緒にいると、時間はすぐにたってしまった。陽が傾いてきて、窓の外が橙色に染まっていく。
「もうこんな時間か」
書類をまとめながら神父が言うと、立ち上がってエミリオたちのそばに来た。画用紙に咲く花の周りには、神父と子どもたち、そしてエミリオが描かれている。それを見た神父は穏やかに笑った。
「ほお、よく描けているね」
「でしょー!」
「上手になったな。じゃあ、今度は本物の花に水をやってきてくれないか?」
「はーい!」
「よろしく頼むよ。エミリオ、一緒に行ってやってくれるかな」
「はい。行こう、みんな」
エミリオは返事をした瞬間に走り出した子どもたちのあとを追って、バタバタと家を出た。
教会の周りには子どもたちが描いた絵のようにいろんな色の花が咲いていた。小さな子ども用のじょうろを持って、咲き誇る花々に水を与える。端から順番に、少しずつ。みんなで水やりをしているとエミリオの脳裏に幼い頃の記憶が蘇ってきた。エミリオがまだ教会にいた頃も、こうしてみんなで花に水やりをしたものだ。いろんな種類の花がたくさん咲いていて、水をあげるとキラキラ輝く宝石のように見えた。
「……エミリオ?」
子どもたちの水やりを眺めているときに、聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。
まさかと思って振り返ると、そこには大きな鍋を抱えたジェスが立っていた。
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