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第66話 父の想い

 子どもたちを寝かしつけ、食器の片付けをしていたら窓の外は真っ暗になっていた。夜になると心がざわつく。エミリオの小さなため息に神父は「どうかしたかい?」と問いかけてきた。 「……やっぱり、夜はちょっと怖いなと思って」  困ったように笑うエミリオを見て心配になったのか、神父は読んでいた本を閉じてテーブルに置いた。 「大丈夫、ここにお前を傷つける者はいないよ。安心しなさい」  神父の言葉に頷き、片付けを終わらせたエミリオは神父のそばに腰掛けた。 「ジェスくんのシチュー、おいしかったな」 「はい。前にも食べさせてもらったんですけど、あの時とはまた少し味付けが違ってて……」  ジェスのことを考えていると不安が少し和らぐ。エミリオはジェスのシチューを褒められてつい嬉しくなって、笑顔がこぼれた。  こんな時でも自分を笑顔にしてくれる存在に出会えて本当に幸せだ。  そう思いながらふと神父の方に目をやると、あたたかな微笑みを浮かべていた。 「エミリオはジェスくんのことが本当に好きなんだね」 「えっ?」 「彼と一緒にいる時のお前は、幸せそうだ」 「えっと、その……」  神父の笑みはすべてを包み込む。まるでエミリオの感情を丸ごと抱き締めるような大きな愛を感じられた。  もしかしたら、神父は気づいているのかもしれない。エミリオとジェスが特別な関係だということに。  心が不安定な時にジェスに会うことができて嬉しかった。それを顔に出しすぎてしまったのでは、とエミリオは緊張して膝の上で拳を握り締めた。 「そんな顔をしないでいい。何も心配することはないよ」 「神父様……?」 「ジェスくんを大切にしなさい。あんなにもお前を思ってくれているんだ。お前にとっても、大事な人なんだろう?」  ドキドキと鼓動がどんどん早く、激しくなっていく。神父の言う“大事な人”の意味がわからないほど鈍感ではない。 (神父様、全部わかってて……)  どんな反応をしたらいいのかわからない。けれど、二人の関係を拒まれているわけじゃない。  むしろ支えるような言葉をかけてくれた“父”に、エミリオは目元が熱くなるのを感じた。 「私は嬉しいよ。そして誇らしい。私の息子をあんなにも想ってくれる人が現れるなんて」  ――この人の息子になれてよかった。その思いで胸がいっぱいだ。  エミリオは泣きそうになるのを必死に堪えながら、小さく震える声で「はい」と頷いた。

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