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第67話 再来
朝、清々しい空気の中で目覚めたエミリオは早速身支度を整えた。今日は図書館に行く。それは昨晩眠りにつく前に決めたことだった。
「エミリオ……もう大丈夫なのかね? まだ休んでいていいんだよ」
部屋から顔を出したエミリオに神父は問いかける。顔色があまり良くないエミリオに、無理をさせたくないのだろう。
でも、何日も図書館を閉めるわけにはいかないし、何よりずっとこの家にお世話になっていたら、元に戻れなくなりそうだ。子どもたちと楽しい時間を過ごすのも、神父の手伝いをするのも、心が安らいで心地よい。だからこそ、早くいつもの生活に戻らないといけない気がした。
「大丈夫です。きっと待ってる人たちがいるから、行かないと」
「そうか……しかし、無理はするんじゃないぞ」
「心配しないでください。一日休んだら、すっかり元気になりましたから。子どもたちと神父様のおかげです。あと……ジェスさんも」
少し照れたように笑うと、神父も納得したような表情でうんうんと頷いた。
このまま普通の日常に戻ることができればそれでいい。ウィズリーのことは、一度ジェスに話をする。それまでは警戒を怠らないようにしよう。
こんなふうに前を向くことができたのは神父やジェス、そして無邪気な子どもたちのおかげだ。
エミリオは感謝しながら自宅への道を歩き始めた。
早朝の明るい道は安心して歩くことができた。夜道のように襲われることはない。時々出会う町の人に挨拶をして、平和な日常を噛み締めるようにして家へと向かう。なだらかな下り坂を通り、そろそろ家が見えてくる。
昨日休んでしまった分、今日は頑張らなければ。一日とはいえ、親子で図書館に来るのを楽しみにしている人たちもいるのだ。
ジェスにも神父にも勇気づけられた。早くいつも通りの自分に戻らなければという焦りがないわけではない。その焦りを胸の奥にそっと隠して、エミリオはようやく着いた家のドアを開けた。
「もう大丈夫なのか? エミリオ」
部屋に入ろうとしたエミリオの背中に言葉が投げかけられる。
声の主は、今一番会いたくない男だった。
いや、きっといつかは会わなければならないと本能で感じていたが、なんでこんな時に、この男――ウィズリーと再会しなければならないのか。
けれど今のウィズリーからはあの夜のような雰囲気は微塵も感じられなかった。まるであの夜に何事もなかったかのように、笑顔でこちらに近づいてくる。
「心配していたんだ。教会でゆっくり休めたか?」
「……来ないで、ください」
「そんなこと言うなよ。君が帰ってくるのを待ってたんだぞ」
じりじりとウィズリーが近づいてくる。いつもと変わらないのに、エミリオにとっては恐怖の対象でしかない。今度はこんな明るい場所で何をするつもりなのだろう。家に押し込まれてあの夜のようなことをされたら、逃げることなんてできない。
(誰か助けて……)
怖くて怖くて、声も出ない。腰が立たなくなってずるりと家の入り口にうずくまる。
エミリオのことを待ち構えていたウィズリーは嬉しそうに手を伸ばしてきた。
――嫌だ、触られたくない。
「まだ調子が戻っていないみたいだな? ベッドまで抱いていってやろう」
腕を掴まれてガタガタと肩が震えた。誰でもいい、誰か通り掛かってくれさえすれば。
そんな都合の良い人物が現れるなんて少しも思っていなかったが、神にすがるしか助かる道がない。
声をあげることもできないまま、エミリオはウィズリーの腕の中に引き寄せられてしまった。
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