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3.一月二日、三日(1)
二日目の朝の禊ぎを終え、鳳凰の間で一休みしたあと、あのサンルームで朝食となった。
加賀谷家の雑煮は醤油のすまし汁に焼いた切り餅、里芋、大根、人参などを入れただけであっさりしている。野菜は当然のように飾り切りされているが、おせち料理が豪華な分、シンプルなものを食べてきたらしい。
遥は雑煮の碗を手に持ち、少し吹いて冷ました。
隆人とこんなに長い時間をゆっくり過ごすのは初めてのことだ。何度も肌を合わせて、たっぷりと悦びを与えあい、遥は身も心も満たされていた。
箸で餅を一口大に切ると、それを隆人に差しだした。隆人が怪訝そうにするのに、遥はにやりと笑った。
「あーん」
苦笑した隆人が口を開け、遥は餅を舌の上に載せた。遥が自分の口に餅を運んでいると、今度は隆人が伊達巻きを一口差しだしてきた。
「ほら」
促されて口の中に入れてもらう。上品な甘さが口に中に広がる。
他人の箸で食べ物をやりとりするなど、前の遥には考えられない行為だった。今はそうやって隆人とじゃれあうのが純粋に楽しい。
食べ終わると鳳凰の間へ戻らなければならない。その時間を先へ延ばすかのように、遥は隆人の腿に頭を載せた。隆人の手が遥の頭を撫でる。
もう年越しの儀も折りかえした。残るは明日の宵の禊ぎまでの時間とその後の詮議となる。そして遥が凰として十分に務めを果たせているかの評価が下る。務めを果たしている認められれば年が明けたとみなされる。そうでなければ年は明けず、年末の再度の年越しの儀に臨むことになる。
儀式の成否も気にはなるが、終わってしまえば隆人とのこんな濃密な時間をまたしばらく持つことはできない。遥は隆人に顔を擦りつけた。
「こら、ここで誘惑するな」
隆人の下腹に変化があったようだ。遥はくすくす笑いながら身を起こした。
「続きは鳳凰の間でって?」
実のところ世話係はサンルームのすぐ近くに控えている。当然ここでの鳳と凰のやりとりも知っている。
「つがいとしての営みは鳳凰の間だ」
遥は軽やかに立ちあがり、隆人に手を差しのべた。
「参りましょう、我が鳳」
冗談めかして気取る遥の手を隆人が握り、笑顔で立ちあがった。そのまま鳳凰の間まで手を繋いだまま戻る。
きれいに整えられた布団の上に遥は座ると隆人を引きよせ、胸に体を預けた。ゆっくりと沈むように隆人が仰向けに横たわる。ついばむようにキスを交わしながら、遥は隆人の体を撫でる。
この男は遥のものだ。少なくともこの四日間だけは他の者に目を向けさせない。それが子どもたちであろうと、妻であろうと。
端 から見れば隆人の行いは、家庭を持つ男が外に情人を作った不貞行為だ。しかし加賀谷という一族の中から見れば実態はまったく違う。遥は一族において、隆人と並ぶ至上の存在となった。敬われ、守られる存在だ。
ただ、凰となった以上――隆人を選んだときから、遥は名前だけの存在でいるつもりはなかった。しっかりと隆人を守護し、繁栄をもたらしたい。そう望むほどまで隆人に魅せられた。
当主として自己の利益のため暗躍する分家を力で捩じ伏せ、企業トップとして社内の反乱分子を抑えながら新製品、新技術の開発を促して経済界で闘う隆人。冷酷な一面とは裏腹の一族や社員への熱い思いは、隆人とプライベートな会話から知った。
自分に向けられる労りや愛情も、幾夜も体を重ねたことで知った。そして遥自身の気持ちも、性の悦びに抵抗がなくなるのとともに増し、いつの間にか隆人が愛しくなっていた。
隆人の剛直が遥の中で抽挿を繰りかえしている。逃がさぬように中がきゅっと締まって絡みつき、肉襞を擦られて遥は切なく喘ぐ。
「はるか……」
繋がったまま隆人が遥の顔にキスを散らす。くすぐったさに頭を振ってそれから逃げる。
「や、だ」
「おとなしくしろ」
キスは途切れたが腰を掴まれた。恐れと期待にごくりと喉が鳴る。隆人が腰を半ばまで引いた。そして肉壁を抉るように一気に奥まで貫かれ、遥はのけぞる。
「ああぁーっ」
何度も奥を突かれ、潤滑の粘液と既に放たれた隆人の精が遥の中でぐちゅぐちゅと音を立てながら撹拌され、後孔から垂れる。
このまま激しく追い立てられていきたいと思う遥を焦らすように、隆人が腰を回し、剛直が肉壁に擦りつけられる。ぞくぞくっと快感に内腿が痙攣し、足先が宙を蹴る。その遥を隆人が抽挿で責める。全身が熱く汗が伝うのがわかる。
遥は快楽に敷布の上を身悶えながら、隆人の髪を掴んだ。
「た、かひと、おれ、もう、いくぞ」
「わかった」
隆人が遥の脚を肩に自らの肩にかけた。遥の腰から背の半ばまでが浮く。
「ともに飛びたちましょうぞ、我が凰」
遥の中に上から熱杭が打ちこまれる。その度に目の前が火花が散る。杭は奥へ奥へと埋めこまれ、遥は息も絶え絶えになる。
「あっ、あっ、うっ、く……」
体の奥深いところまで侵されて、それが悦びになっている。体の内から灼熱の杭で蕩けていく。
いい、かんじる、きもちいい、きもちいい――遥の頭にはそれしか浮かんでこない。いや、他にも浮かぶ言葉があった。
たかひと、すき……
上からさんざんに穿たれた後、肩から下ろされた脚は胸まで折りまげられて更に抉られ、座った隆人に向きあって下からも突きあげられた。もう何も見えない。気持ちいいのかさえわからない。
背を敷布に包まれた布団が柔らかく受けとめた。だが、奥まで達した隆人の責めは続いている。
全身が震えて止まらない。極限まで追いつめられてしまった。もう飛ぶしかない。
「あ、あっ、ああ」
「はるかっ」
手をきつく握られた。
「あっあっあーッ」
その瞬間、遥は絶頂に身を任せた。びくぴく震えながら精が腹に溢れる。隆人も遥の中に肉を叩きつけながら熱を吐きだした。
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