2 / 17

第2話 あざとさしかないのに堕とされる

 数分と経たずに、カシャンっと響いたロックの解錠音。  無言で部屋に入ってきたのは、俺がオーダーした通りの、ゆるふわロングのウィッグに、可愛らしいミニスカートのメイド服を纏った男の娘。  足許は、黒のエナメル靴に真っ白なニーハイソックス。  ちらりと見える腿に映えるガーターベルトも堪らない。  予想通りの可愛さに、思わず口許がにやりと緩む。  入ってきた男の娘は、ベッドに座ったままの俺の前に立ち、キャラメル色の髪を揺らし、首を傾げた。  バサバサと音が聞こえそうなほど重ねられたつけ睫毛に、くっきりと描かれたアイラインに彩られた二重の瞳。  元の顔なんてわからないほど綺麗に施された、ばっちりメイク。  ……なんだけど、何となくの既視感を覚える。  俺の熱視線が居心地を悪くしたのか、バツが悪そうに眉根を寄せ、瞳を游がせる男の娘。  数秒の後、目の前に佇む男の娘は、親指と人差し指を動かし、無言で“チェンジか”と問うてくる。 「しない、しない」  ぶんぶんと頭を横に振るい、両手を広げて見せた。  男の娘は、おずおずと近寄り、床に膝をつく。  俺の膝に両手を添え、顔色を窺うように、上目遣いに見上げてくる。  あざとさしかないその仕草に、可愛いとか思っちまうチョロすぎな俺。  胸に引っ掛かったはずの既視感は、その可愛さに、すぽんっと抜け落ち、掻き消される。 「名前は?」  無意識に、その頭を撫でていた。  この娘なら指名料を払ってでも、何度でも、お相手願いたいと名を問うた。  少しだけ身体を離した男の娘は、胸許につけている名札を見せてくる。 「チカちゃん?」  声にチカちゃんは、首を縦に振るって肯定する。  腹から胸へと迫り上がってくるチカちゃんに、俺はそのままベッドへと上体を沈めた。  バスローブの袷から覗く俺の胸許に、ピンク色に彩られたチカちゃんの唇が触れる。  ちゅっと、わざとに立てられたリップ音が俺の耳を擽る。  何度も立て続けに、その音だけが部屋に響いた。  バスローブの袷から、するりと忍び込んできたチカちゃんの手が下着の上から、やんわりと俺の股間を握った。  俺のペニスは、まだ半勃ちだ。  ムードを盛り上げようと頑張るチカちゃんは、掌全体で俺の股間を弄りながら、首筋に淡く噛みついてくる。  わかりやすい煽りなのに、俺の背がそわりと震えた。

ともだちにシェアしよう!