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第5話 俺は好機を見逃さない
たぶん俺が抱えているのは、2つ上の学年で、同じ研究室にいる美納 誓将 先輩だ。
名前を略され、周りから“ちま”と呼ばれている。
本当は小さくてちょこまかと動く姿からというアダ名の由来は、当人のプライドを守るため、伏せられている。
誓将 先輩は、俺の好みである“小さくて可愛い”が具現化したような人物だ。
身体の小ささに、大きな瞳と小動物のようなちょこまかとした動きは、無意識に俺の心を揺さぶってくる。
性格は大雑把で、考えるより先に身体が動くタイプ。
石橋なんて叩かずに渡るし、その橋がたとえ藁だったとしても、何の疑いもなく踏み出すだろう。
そんな危なっかしい性格だから、心配で目が離せなくなるのも、仕方ない。
ついこの前。
2メートル近い書棚の上に収納されているダンボールを取ろうと誓将先輩は、踏み台代わりのパイプ椅子に足を掛けようとしていた。
160センチあるかないかの誓将先輩に対し、俺は190センチ越えで、踏み台がなくても手が届く。
だけど、どれを取ろうとしているのかがわからない上に、合法的に抱き締められるこんなチャンスを俺が、見逃すはずもない。
踏む位置を間違えればパイプ椅子がバチンっと畳まれ、怪我をしかねないその状況に、自然な動きで誓将先輩の腰に後ろから片腕を回す。
「パイプ椅子じゃ、危ないっすよ」
驚きに振り向いた誓将先輩に、いかにもな忠告を放つ。
腰に抱きつくように両腕を回し、誓将先輩を持ち上げた。
バカにするなと怒られるかとも思ったが、俺の顔を見下ろしながら、ぱちぱちと何度か瞳を瞬 いた誓将先輩は、視線を棚上へと戻す。
「もうちょい右」
当たり前ように指示を出し始める誓将先輩に、少しだけ右にずれた。
無事に目的のダンボールを手にした誓将先輩を床へと下ろす。
「ありがとな」
ダンボールを手近なテーブルに置いた誓将先輩は、困惑気味の笑みを見せた。
「いえいえ。今度からはパイプ椅子じゃなくて俺、使ってください」
ひょいっと持ち上げる動作をする俺に、瞬間的に顔を曇らせた誓将先輩は、不服をごくりと飲み込んだ。
「オレを持ち上げるんじゃなくて、取ってくれよ」
「そうっすね」
テーブルに置いたダンボールをぽんっと叩く誓将先輩に、軽く笑って誤魔化した。
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