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愛しくて、優しい……人 39
────⋯
「………なぁ、渚?」
「え、なに?」
「やっと手に入れた気がする。」
「何を?」
「オレの居場所……」
「居場所……?」
「そう。オレの居場所は………渚。やっと手に入れたんだ、オレがオレらしくいられる場所。」
「おまえがおまえらしく……それが俺?」
「そう。だから、渚のこと絶対に何があっても手放さないから…………絶対に。」
俺の隣に腰を下ろし、優しく俺の髪を撫でながらそう強く言う声が、
微かに震えていたことに、
………その時の俺は気付かなかった。
*
それから数日は穏やかに過ぎ、俺たちが出会った頃には蕾だった桜もいつしか全て散っていた。
校庭を歩きながら一本の桜の木の前で立ち止まり見上げると新緑の葉が伸びていて、ちょっと前までの淡いピンク色は一面澄んだグリーン色に姿を変えていた。
「桜、散っちゃったな……」
「………そうだな。」
「なぁ、橘?来年は一緒に花見行こうな。」
「………………そう……だ、な」
そんな何気ない会話をした日からちょうど10日経った頃、
あいつが、
俺の愛しい人、橘 優人が……
俺の前から姿を消した────⋯
*惑わすアイツは生徒会長~1部終了*
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