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アイツのいない世界 11
向井は噂を信じて心配してるんだろうけど、本当の橘はそんなやつなんかじゃない。
噂の事情はアイツから聞いてるけど、それをそのまま言ったらまた向井は突っ掛かってくるんだろうな。
それにアイツと一緒に居て、そんなやつじゃないってことは俺がよくわかってる。
いや、……俺の前ではそんなやつではない。
でも……信じたいけど、一抹の不安が残るのも事実で。
全ては、アイツが今此処にいないのが一番いけないんだけど。
「とにかく、噂は噂だ。気にするな。なっ?」
なんだか重い空気を変えたくて、なるべくいつも通りに返したつもりだったのに。
「俺は気にするんだよ!」
ピリピリとした空気は向井のその声で更に重くなる。
今日の向井はいつもと違う。いつもはこんな喜怒哀楽が激しいわけでもないし、どちらかというとマイペースなやつなのに……
「向井…どうしたんだよ、今日ちょっとおかしいぞ?」
「別におかしくない。俺は、相原のこと心配なだけなんだよ。ここ数日、おまえ死にそうな顔ばっかしてたから。心配なんだ……………親友として。」
向井のこんな顔、初めて見たかも。
切羽詰まったような、俺を本気で心配してる眼差しはなんだかいつもの向井とは別人に見えた。
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