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アイツのいない世界 14

一瞬のことで何が起こったか理解するのに数秒かかった。 抱きしめる腕の力も、 “渚”と耳元で囁く声も、橘とはまるで違う。 全然違うはずなのに俺は何故か動揺していた。 それは、意識を失う直前に耳に届いた俺を呼ぶ声に似てたような気がしたから。 あの声は橘じゃなかったのだろうか……… 間違えるはずがないと思っていた声なのに、自分の耳に自信がなくなってきた。 「………あっ、いやっ…ごめん!」 そんなことを考えていたら、向井は慌てながらもすぐに俺を押し戻して離してくれたけど、俺は返す言葉が見付からず、その場に立ち尽くしたまたま動けないでいた。 「……………あ、あの…」 「相原、ごめん。今のは何でもない!気にするなっ!」 気にするなと言われても……あんな顔で抱き締める親友いるかよ。 でも、親友とは違う意味で……なんて正直考えられないし、向井に限ってそれはありえないだろ。 雰囲気に流されただけだ。きっとそうだって自問自答を繰り返してみたけど、あの顔はマジな顔だったのは事実だし…… でも……向井は俺の大事な“親友”。 それは俺の中でこれからもきっと変わらない。 だから、橘のこともいずれちゃんと言わなきゃって思ってた。 ………仕方ない。 このタイミングもどうかと思うけど、ある意味切っ掛けになるかもしれない。

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