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アイツのいない世界 21
「アイツ、休学届け出しに来たらしい。」
「は?!」
「それに、今日は一時帰国で、また海外に渡るらしいぜ。」
一時帰国?!海外?!
何なんだ、いったい。
「海外ってなんですか!!アイツ、留学でもしたんですか?!」
「理由は俺にも話してくれなかった。でも留学ではないな。留学なら教師全員に通達が来るがアイツの名前はなかった。それと、これ………アイツが返してきた。」
そう言って俺に渡してきたのは、
「これ………生徒会会長の…バッチ……」
「渚が持ってろ。アイツのこと待つんだろ?」
「……………俺……」
「………アイツもな、今の渚と同じ顔してた。」
「え……?」
「苦しそうな、今にも泣き出しそうな……今の渚と同じ。だから、それはおまえが持ってろ。で、帰って来たら渚からアイツに返してやれよ。」
俺と同じ顔………
橘も俺と同じで離れたくないって思ってくれてるのだろうか………
寂しいと思ってくれてるのだろうか……
俺だって、離れたくないし…………寂しい
やっと想いが通じ合ったのに………
でも、アイツは此処には居ない。
代りにあるモノは、この手の中のバッチだけ………
────渚、ごめん
………ごめん……────
やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ。
“ごめん”と言う橘の声が頭の中で……何度も、何度も響き渡り、
視界がだんだんと滲んできて、
そんなつもりなんてなかったのに、
気付いたら俺は泣いていた………
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