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アイツのいない世界 26
適当な場所に二人腰を下ろすと、ほっしーは俺にパンを差し出してくたれた。
そういえば、望月のとこから戻ってきた時、袋を手にしていたけど中身はパンだったのか。
「これ、よかったら食べる?」
目の前に差し出されたのは、コロッケパンと焼きそばパン。
それを見た途端、俺は固まってしまった。
「……………ど、うしたの?あ、嫌いだった?それとも、食欲まだない?」
「いや、どっちも、大好き…………」
……………だった
そうだよ、どっちも大好きだった。
アイツに出逢う前までは。
たかがパンだけど、俺にはすげー思い出深いから、アイツが居なくなってからどうしても食べる気になれないでいる。
どんだけ乙女思考なんだよって自分でツッコミたくなるけど、受け付けないもんは仕方ない。
「………やっぱり、すぐには食欲出ないよね。こっちの方が消化良さそうだから、こっちあげるね?」
俺の膝の上に置かれたのはコロッケパンでも焼きそばパンでもなく、クリームパン。
「………ほっしー……」
顔を上げほっしーを見ると、優しい顔で“食べな…”と微笑んでくれた。
その顔は、俺の異変に気付いているのにそしらぬフリをしてくれてるような……そんな表情をしていて、また何も言えなくなってしまう。
………ほっしーを好きになれば、よかった………
俺はその優しさに、
そんなことを、
一瞬でも思ってしまった。
…………何考えてんだ、俺。
いくら心が弱ってるからって、そんなこと一瞬でも考えるなんて………俺、しっかりしろよ!!
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