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真夜中の密事 48

「…………元気でな、渚。」 本当に別れだと思うと、目の前の橘を見ることが出来ない…… 「渚………?顔、見せて?」 「…………ム、リ」 「…………渚……」 「………だって…」 泣くもんか!と思っても優しく“渚”と呼ばれる度に寂しいが倍増して…… 「泣くなよ……」 「…………ムリ…だ、よ……」 やっぱりダメだ。 会ったら別れが辛くなるって分かってて会った俺が悪いんだけど、こんな辛いだなんて正直思ってなかった。 胸が苦しい…… 身体中が鉛のように固まって動かない……… でも言わなきゃ…… 泣いている場合じゃないんだ。 「………そろそろ、本気で時間……」 「ま、待ってっ!」 ちゃんと、顔を見て言わなきゃ…… 「………俺、」 「……どうした、渚?」 涙で喉がむせ返りそうになるのを必死で抑え、目の前の橘を見据え……言葉を繋げた…… 「………待ってる、から。………優、人のこと…ちゃんと、待ってるから……だから……」 「あぁ、分かってる……ありがとう、渚。ちゃんと半年で帰ってくるよ。」 「………………う、ん。」 「好きだよ」 「うん」 「愛してるよ」 「うん」 「渚は言ってくれないのか?」 「…………す……すき……だいすき」 「ありがとう」 涙でぐちゃぐちゃの顔を覗き込み、そう礼を言った橘も泣きそうな顔をしていた。 本当に本当にさよならだ ……そしてそのまま俺たちは、 引き寄せられるように、 触れるだけの最後のキスを交わした────

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