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第10章 運命の悪戯 1
「にーちゃん何ぼーとしてんの?」
「…………」
「もー!にーちゃん!聞いてるの?!」
「え?なに?……ごめん。」
あれから橘と別れ、アイツはそのまま空港へ向うと言っていた。
俺はというと、キスの余韻も薄れぬまま別れたからしばらくその場から動けず、数秒でたどり着けるうちまでの短距離を鉛のように重たい身体を引きずりながら、ものすごい時間をかけてやっとの思いで帰った。
幸い、家族は寝てて誰にも会わずに部屋まで辿り着けたものの、部屋に入ると身体の力が一気に抜け、気付いたら着替えもせず寝てしまっていた。
その数時間後に朝ご飯だと叩き起こされ、その当たり前の日常に昨夜のことが夢だったのか現実だったのか一瞬分からなくなった。
食卓に座り、目の前に居る湊が何回も俺を呼ぶ。
その声で少しづつ自覚していく……
ここは、うち……なんだと、
そしていつもの何気ない朝で、
数時間前まで当たり前に隣に居たアイツは、もう居ないんだ………と。
だけど寝不足で頭がぼーとして、まだ夢の中にいるような錯覚さえ覚える。
いっそ、これが夢ならな……
目の前の目玉焼きを突きながらそんなことをぼんやり考えていた。
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