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運命の悪戯 9

…………好きな……女、か…… 一人になってさっきの会話を思い出す。 橘との仲を意識するあまり“いない”と言ってしまったけど、やっぱりどうも後ろめたい気持ちになる。 好きな人は……いる。 けど、女じゃない。 しょうもないことでぐるぐると考えすぎだってわかってるけど…… こんな時アイツなら、なんのためらいもなく、“恋人がいる”と明かせるんだろうな。 だけど、そこまで決断出来ない俺はちっちゃい男なのかもしれない。 だから親友の向井にすら、未だに本当のことを打ち明けられずにいる。 心のどこかで迷ってる自分がいるのも確かで、 本当に俺でいいのかな…… 頭の片隅にあるそんな気持ちはずっと消えないまま。 『オレの居場所は渚だから……』 橘が言ってくれた言葉を思い出し、車窓からふと目線を上げ空を見たら、星が一面を覆っていた。 アイツは俺がいいと言ってくれたんだ。 別に不安がることなんてない。 だけど…… 一人になった途端これだ、 こんな気持ちになるつもりなんてないのに……… ため息を一つ吐き出し、流れる夜景をぼんやり見つめながら気付いたら口に出していた…… 「………アイツ、何してんだろ…… 会いたいよ……」 吐き出された本音は、なんでもない日常の雑音に紛れて消えた。

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