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友達以上、恋人未満 31
「俺──……」
俺から視線を外し、必死に落ち着こうとしているのか、向井はそう口にしてから黙ってしまった。
「向井?」
「……いや、あのさ……俺…初恋も…ファーストキスも、全部鳴だったんだよ……」
少しの沈黙の後、ぽつりぽつりと話しだす向井は、俯き加減のまま俺の返事を待つことなく続けられた。
「あいつのこと、これでも大事にしてたつもり。多分、ずっと……この気持ちは変わらずにいくんだろうなって……正直、思ってた。」
時々言葉を詰まらせ、俺には苦しそうに聞こえるその告白をただ黙って聞いていることしか出来なくて、なんとも居たたまれない気持ちになってくる。
「…………こう見えて、俺…鳴以外とは付き合ったことないんだ。知らなかったろ?」
「え?………あ、うん、知らなかった。」
そこそこ顔もいいし俺よりモテる要素が備わってるこいつは、普通に今まで何人か付き合った子いると思ってたのに。
「正直……、俺より遊んでると思った。」
「ひでーなっ。こう見えて、結構一途なんだぜ?」
「ご、ごめん。」
ちょっと苦笑しつつも、俺の失礼な発言にいつも通りのテンションで答えてくれ、少しだけ安堵したのも束の間……空気は相変わらず重い。
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