348 / 498
4度目の正直 8
「────“渚のことは1日も忘れたことはない……愛している”……と、優人坊っちゃんが渚様に伝えて欲しいと……」
突然そんなことを言われて、咄嗟になんて言ったらいいかわからなかった。
それに、廣瀬さんにそんなことまで伝えさせるなんて、相変わらず俺様だな……
苦笑しながらもとりあえず、そんなことまで伝えさせてしまったことに礼を言うと、廣瀬さんは慌てて、とんでもないと微笑んでくれた。
「優人坊っちゃんは、渚様のことをとても心配されてました。ですから、きっと安心させたくて…私に伝言を申し付けたんでしょう。……滅多にそんなことを口にする方ではないですから。」
人一倍プライドも高い橘だからわからなくもない。
現に、“好き”は年中言っていたが、“愛してる”は、数回しか言われていない。
それなのに───
「………ムカつく」
なんで……そんな大事な言葉、伝言とか頼むんだよ。
「渚様?だ、大丈夫ですか?」
膝の上で握り締めていた手に無意識に力が入る。
伝言なんかじゃなく、てめーが直接言いやがれ、バカヤロー。
悲しさと嬉しさの間のような気持ちが押し寄せてきて、俺はたまらなく胸が苦しくなった。
「橘の…………バ、カ───…」
そして鉛のようなどろどろした感情を吐き出したその言葉は、アクセルを踏み込んだエンジン音に掻き消され、一瞬で消えていった。
ともだちにシェアしよう!