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パンドラの箱 30
数秒の静けさが通り過ぎた後、俺の腕を痛いくらいにグッと橘が掴み───次に感じたのは痛みではなく…温かさ。
「…っ……ちょっ……」
「………でも、やっぱり違うな。」
そして引き寄せられたかと思ったらあっという間に俺は橘の腕の中へ。
「……違う?なに…が…」
「ん?……やっぱり、本物の渚が一番だなって。」
抱きしめられたまま、その言葉の意味をイマイチ理解出来ずに腕の中で黙っていると、更に強く抱きしめられた。
あまりにも強い力に痛いって言っても橘は全くもってシカトで、俺の肩に顎を乗せたまま耳元で話しは続けられた。
「オレからの伝言、爺から聞いたろ?」
伝言………?
“渚のことは1日も忘れたことはない……愛している”
ちょっと前にわざわざ俺のとこに廣瀬さんが来て、橘の帰りが遅くなることと、その伝言を聞いた。
それを聞いて、俺は更に寂しくなったのを覚えてる。
「う…うん…聞いた。」
「あれ、マジだから。マジで1日も忘れたことなかった。だから今、こうして触れられているのがまだ信じられねーよ。なんか……オレ、今日ヤバい……かも…」
そう言う橘の声が少し震えていて、様子がおかしいから顔を見ようとしたら全力で阻止された。
「………たち…ば、な?!」
「見るなっ。今は止めろっ。」
え………
まさか……
泣いてる……?!
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