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パンドラの箱 31
「………まさか、おまえ…泣いてるの?」
「……煩い、黙れ。」
ばつが悪そうに強がってるこいつの声はやっぱり少し震えてる。
こいつが泣くなんて…あの日以来だよな。
あの時もあり得ないくらいびっくりしたけど、今日だってそこそこびっくりしてる。
お陰で自分の涙はすっかり引っ込んでしまった。
「………おまえが泣くの…久しぶり、だよな。」
「………当たり前だ。いつも渚絡みだよ。」
「お、おれ…なの?」
「他の理由で泣いたことなんて一度もねーよ。知ってるだろ?……渚のことになると感情がコントロールできねーんだ。」
きっと、こいつも……不安だったんだよな。
「………良かった。」
「は?」
「なんか……向井とのことで…」
「なんだよ」
………嫌われなくて、良かった。
自惚れかもしれないけど、泣くほど俺を想い、好きでいてくれたことに俺は心底ホッとした。
「…………橘が変わってなくて…良かった。」
「ばっ、ばーか…当たり前だろっ。つーか、オレ…部屋入りたいんだけど。」
それに、ごくたまにこんな風に照れて、さりげなく話をそらしちゃうとことか…可愛いかもなんて思ってしまうのも久しぶりでなんだか嬉しい。
そんな感情に浸りつつも、橘の一言でふと冷静に今の状況を考えてみる。
確かに再会したと同時に抱きしめられたから橘はまだ靴を履いたままだし、しかも俺は裸足のままで…そんな状況を少しずつ把握していくにつれ、みるみるうちに恥ずかしくなってきた俺はまた悪い癖が出てしまった。
「お、おまえがいきなり抱きつくからだろっ!」
橘もだけど、裸足のままとか…自分の必死さに俺も思わずいつもそうしてたように悪態を吐いてしまう。
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