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パンドラの箱 38
「んん…ふッ………」
軽い酸欠状態の息苦しさから解放されたくて薄く口を開ける。
すると、そこから橘の舌が咥内へと入り込み、俺の舌を見つけるとねっとりと絡ませてきた。
それだけでも身体中はどんどんと熱くなって、頭の中はふわふわと何処かを漂っているような感覚に陥っていく。
そんないつも通りのキス。なのに、久しぶりのそれはお互いどこかぎこちなくて、まるで初めてキスした時のように感じてしまった。
いや、でも、初めてなんて突然過ぎて実際はほとんど記憶がないと言えばない。
だからこのぎこちなさはある種緊張からなのか。
3ヶ月前まではキスなんて数えきれないくらいしてたのに、今さら緊張なんてと思いつつも、俺は紛れもなくドキドキしていた。
まるで、もう一度恋に落ちたみたいな……
それ程この心臓の鼓動はあの日みたいに速く、うるさい。
「渚、何考えてんだよ。」
そんなことをふと考えていたら、唇が離れすぐに橘の声が聞こえた。
「…………え、いや……なにも。」
「嘘つけ。俺以外考えるな。それに……」
「それに?なに」
背中に回された腕が緩み、そのまま移動した手は俺の頭を優しく撫でる。
次に発せられる言葉を待ちながらその行為に身を任せていると、吸い込まれるほどの瞳で見つめられた。
だけどその瞳は、優しさを感じるその手とは違い、
酷く、冷たい目をしていた。
そしてその手はそこから離れると、そのまま俺の首筋のある一ヶ所を親指の腹でなぞってくる……
視線はそらさず俺を捕らえたままで。
その一連の動作の意味をすぐに理解出来るわけもなく、ただされるがままでいるしかない俺に、橘は………
「……それに、オレ以外の奴にまたこんな痕付けさせたら、二度と許さないからな。」
「え……」
「キスマーク……」
「え?!」
向井に?!
「よく覚えとけ。二度とあいつに触れさせるな。約束破ったらこれだけじゃ済まねーから。」
そう低く冷たい声で言い放つと、その紅く痕が残るであろうそこに唇を寄せ、きつくきつく歯を立ててきた。
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