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第14章 海より深く 1

────これ以上幸せな気持ちになることは、この先もあるのだろうか。 好きな人が誕生日に“おめでとう”と目の前で言ってくれる喜び。 そして、 “愛している” と、想いを言葉にしてくれる嬉しさ。 これ以上なんて……… ─────── 「…………橘」 触れられる距離に居るということを実感するように、その名を呼んでみる。 色々話はあるのは分かってるけど、もっと触れたくて、触れて欲しくて。 今はなにより…… 「渚………そんな目で見るなよ。」 「だって……」 やっぱりもっと触れ合いたいんだよ。 「全く……。我慢して話しようと思ったのに……」 我慢なんて、橘らしくない。 いつだって俺様で好き勝手俺を振り回すくらいが今はちょうどいいんだ。 だけど… 「…………。」 それを素直に言える性格ではないからどうしても歯切れが悪くなってしまう。 「……あのさ、今日は渚の誕生日だから渚のしてほしいこと、してやるよ。」 「……え、なに突然。」 「してほしいこと…言ってみろよ、“今、してほしいこと”誕生日プレゼントの代わりに聞いてやるから。」 して…ほしいこと。 俺を優しく伺う眼差しに思っていたことがぽろりとこぼれる。

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