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海より深く 2

「……もっと、触れて…ほし…い」 「触れるって?」 「……もっと、近くで────」 それ以上口にするにはあまりも恥ずかしくて、最後は小さい声になってしまった。 すると橘は、言葉の意味を理解したかのように“わかった”と言って俺をソファーにそのまま押し倒してきた。 視界がぐるりと回転する光景がやけに懐かしい…… 「渚、今日は何の日だっけ?」 「俺の…誕生日?」 「それと?」 「たな…ばた?」 「そう。織姫と彦星が愛し合える唯一の日。」 もう分かっただろうと言わんばかりにニヤリとされた。 「あの……」 「渚……抱くぞ。」 そして、熱っぽい声色で俺を見下ろしながら囁かれた後、約3ヶ月ぶりにその重みをゆっくりと実感していく。 首筋にかかる熱い吐息にくすぐったくなりながらその背中をきつく抱きしめると、帰ってきたんだと…やっと実感した気がして嬉しさが込み上げてくる。 こうして触れ合える距離に居ることがたまらなく嬉しくて、 「………おかえり────優人」 自然とそう口にしていた。

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