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海より深く 20
ばつが悪そうに小さく呟く橘の表情は、目隠しを取った直後よりは幾分和らいだように見えたけど、それでもまだ複雑な顔をしてて……胸の奥がチクリと痛い。
「それに、こんな抱き方して、彼氏失格…だよな。」
「んなことねーけど……ちょっとびっくりはしたよ。」
あんな抱き方されたの初めてだし、そりゃびっくりもするだろ。
それに事の真相を知った今、俺のせいでこんな気持ちにさせて、なんだかいたたまれなくなるけど、同時に橘が俺を想ってくれているのが変わらないんだなってことが改めて分かって正直嬉しかった。
まぁ、そんなことで単純に喜んでる俺も相当毒されてるけど。
だから、そんな風に実感してホッとしたら、さっきまで張りつめていた緊張が急に薄れ、何度も吐精した疲れと媚薬のせいなのか意識が遠退いてきて、
「……渚?」
「……ごめん、なんかホッとしたら…眠くて────」
「おいっ!渚っ!」
橘の声が遠くに聞こえ始めてくる。
そんな俺を心配そうに見下ろす橘が重い瞼の端に見えて、何度目かに俺を呼ぶ声を最後に俺は意識を完全に手放してしまった。
そして、この意識を手放してしまったことが数時間後目覚めた時────
激しく後悔することとなるのをその時の俺は知るよしもなかったんだ。
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