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海より深く 27
「お、おいっ!いきなり走り出すなって!あっぶねーだろっ!!」
「俺さ────」
俺の話なんてまるで聞いてないかのように、向井は何かを吹っ切るように勢いよくペダルを踏み込み────その時ボソッと呟いた向井の一言が、俺の耳に聞こえてしまった。
“俺さ────
やっぱり諦めきれないよ……”
多分、俺には聞こえてないと思って言った一言だと思う。
だけど、聞こえてしまった向井の本音。
……聞こえなかった方がよかったのに。
そして、俺の狡い本音。
親友って時に残酷だ。
これがただの友達程度ならこんな苦しくなることだってないのに。
向井がすんなり諦めたなんて思ってはなかったけど、やっぱり本音を聞いてしまうと正直申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
向井は親友であって、それ以上でもそれ以下でもない。
その気持ちは今だって変わらない。
たぶん、この先変わることはないと思う。
それに、向井だって橘だって二人とも俺にとっては大事なんだよ。
親友と恋人……二人を天秤にかけることなんて────
「………ごめんなっ」
振り返ることのないその背中にそっとそう呟き、朝靄のかかる空へとため息を吐き出きだすと…ペダルを漕ぐスピードが少しだけ増したような気がした。
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