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海より深く 31
結構……いや、かなり手強い。
まさか向井にこんな悩まされるとは…
正直、参った。
「む、向井…あのさ、どうしたら俺のこと諦めてくれんの?」
だから、露骨だけどそう聞かざるおえなかった。
だって、これ以上何を言ってもきっと平行線のままだ。
このままだと橘がいつキレるかも分からない。
こいつがキレたら向井だってきっと太刀打ちできない……つか、俺だって宥める自信なんてない。
「………俺が、橘には勝てないって思えるような、決定的な何かを見せ付けられたら。」
なのに向井は相変わらずで、それがわかんねーから聞いてんのに!
「じゃあさぁ、これならその“何か”なんじゃねーの?」
困り果てた俺の横で、橘がそう言ってポケットから何かを取りだそうとし始めた。
それが何なのか、俺も興味あるから、向井と一緒に見入っていると……
「渚っ!!」
何故か急に叫ばれた。
「えっ!?びっくりしたって…ちょっ、なに?!」
ポケットへ伸びていたはずだった橘の手は、気付いたら俺の腕をものすごい勢いで掴んでいて、更には何故かすごい剣幕で問いただされた。
「なにじゃねーよ!これどうしたんだ?」
「はぁ?何が?」
「これっ!怪我してるのに気付いてなかったのかよっ!」
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