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海より深く 32

怪我? 怪我なんかした覚えねーし… 「俺、別にどこも……あ、」 もしかして…… 「もしかして、これのこと?」 確かにさっき玄関のドアに挟めちまったけど、別に怪我ってほどでもないんだけどなぁ。 「これどこでやった?……ったく、気を付けないとダメだろ?」 「ごめ…………え…」 だけど橘は大袈裟なくらいに心配して、その声は次第に穏やかになると、まるで子供を叱る親のような言い方で俺に促し、 「………ちょっ、おまえ何してんだよ!」 そして、そのまま消毒とばかりに何の迷いもなくその指先を口に含んで優しく舐められた。 二人の時ならまだしも、向井が目の前にいるって言うのに、こいつは何を考えているんだ。 口に含まれた自分の指先を眺め、そんな風に向井の目ばかり気にしている俺なんてお構い無しに、橘は舌先で労りながら上手に舐め続けている。 だけど、俺には正直指なんかよりこの状況が恥ずかしくてたまらない。 「………橘、もう大丈夫だから、離して。恥ずか…しい……」 するとすんなり口から指を離してくれて、ホッとしたのも束の間、 そのままぐっと腰を引き寄せられ、こいつは向井の目の前でもっとすごいことをしでかしやがった。

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