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海より深く 34
そう言い放った向井は、すごい勢いで橘の腕から俺を引き離すと、自分の方へと引き寄せ……
「………やめっ…んんッ!!」
橘の目の前で、俺にキスをしてきた。
「てめっー!!何してんだっ!!」
一瞬の出来事に何がなんだか分からなくて、唇を塞がれキスされたんだと気づいた次の瞬間には橘の怒鳴り声が聞こえて、俺と向井はその声と同時に引き離される。
そしてそのまま橘は、向井の胸ぐらを掴むとすごい勢いで殴りかかっていた。
目の前で繰り広げられている光景に唖然としつつもとにかく二人を止めなきゃと声を上げ、
「橘っ、なにしてんだよっ!ちょっ…向井、大丈夫か?!」
「渚っ!!」
地面に倒れる向井に駆け寄ろうとする俺を一喝して、腕を痛いくらいに掴まれる。
「てめーに渚は絶対渡さないっ!!!」
「痛いって、橘っ…腕痛い!」
「うるせっー!!もう我慢ならねーんだよ!オレの目の前でよくもあんなこと!!ふざけやがって!!」
こんなにマジで怒ってるこいつ……見たことない。
「向井、オレはおまえが渚の親友だからって一応は気を遣ったつもりだった。だけど、もう知らねー!おまえがそういう態度ならオレも容赦しねーからっ!!」
それに、こんなに感情を剥き出しにしているのも。
「橘っ、落ち着けって!向井だってそう言うつもりじゃ────」
なんとか橘を宥めようとしていると、向井がゆっくりと起き上がり、こっちを向いた口端には血が滲んでいて、
だけど、それ以上にびっくりしたのは、
「………む…かい…」
「相原……いいよ、俺が悪いんだ。」
……そう言う向井の表情が酷く苦しそうだったから。
苦しそうで、寂しそうで、
俺は、もっともっと思い知らされた────
“親友”という残酷さを……
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