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海より深く 37
「喧嘩なんて……そんなことをするために此処に戻ってきたわけではないでしょう?」
「…………爺……なんで…」
そこには、穏やかに微笑む廣瀬さんが立っていて、その優しく語りかける声色で俺は少しだけ落ち着きを取り戻せた。
「おい、相原?あの人って、前に……」
「え?………あ、そう。」
向井にはちゃんと紹介はしてないけど廣瀬さんとは一度会ったことあったっけな。
「優人坊っちゃん、お久しぶりです。そして、渚様もお久しぶりです。そちらは…渚様のご友人の方でしたよね?」
「廣瀬さん、お久しぶりです。こいつは俺の…親友の向井です。」
改めて“親友”と口に出してみると予想以上に胸がチクリと痛んだ。
「向井様、その節は大変失礼いたしました。私、優人坊っちゃんのお世話をさせていただいております廣瀬と申します。」
「失礼だなんて、俺は大丈夫です。」
「それに、先ほどは坊っちゃんがご無礼をいたしましたこと深くお詫びいたします。重々、大変失礼いたしました。」
「そ、そんな、大丈夫です!それに、俺はもう帰りますから!」
「向井?!帰るって……」
「あー…なんか俺、お邪魔ぽいから帰るよ。相原のことはまだスッキリとはいかないけど…時間をかけて納得してくつもり。だから…橘と仲直りしろよ。じゃあな。」
「ちょっ、向井!!」
深々と頭を下げる廣瀬さんに向井も慌てながらも頭を下げ、自分だって複雑な心境なはずなのに、俺にそんな捨て台詞を残して一人帰ってしまった。
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