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海より深く 38

そんな光景を橘は未だ不機嫌そうな顔をして突っ立っていて、追いかけなくていいのかと聞かれたけど……そんな不機嫌な顔で言われたってな…“いい”としか言えねーだろ。 なんか…廣瀬さん、色々大変だなぁ。 今だってそうだし、橘の性格上、廣瀬さんが頭を下げる機会って少なくないような気がする。 「……爺、いつから見てたんだよ。見てたんなら止めに入ったらよかったじゃねーか」 まぁ、等の本人は相変わらずと言うか…なんと言うか。 「坊っちゃんが向井様に掴みかかるちょっと前でしょうか。ですが、どうせ止めに入っても無駄だったでしょう?」 「んなことっ……」 なるほどなぁ。 廣瀬さんには全部お見通しってことか。 そして、黙ってしまった橘に畳み掛けるように廣瀬さんは言葉を続けた。 「向井様のこともですが、渚様にも例え嘘でもあのような酷いことを言ってはいけません。渚様、申し訳ありませんでした。」 「えっ?!いや、俺こそ…つい色々言ってしまったので…すいません。」 「爺っ!うるせーぞっ!」 「坊っちゃん…そんな簡単に渚様を手放すなんて出来ないことくらい坊っちゃんが一番分かってますよね?渚様のためにどれだけの時間を費やしてきたか。爺がお側でずっと見てきたんです……限られた時間の中、坊っちゃんは────」 「爺っ!!それ以上言わなくていいっ!!」 廣瀬さんが言った言葉の意味を理解する前に橘がすごい剣幕で話を遮った。 “限られた時間” て、……なに? 「廣瀬さん、その“限られた時間”て、どういう……」 「爺、オレから話すから。」 「坊っちゃん………」 廣瀬さんが重い口を開こうとする前に橘が再び話を遮り、そして静かに話は始まった。 「……オレには、タイムリミットがあったんだ。」

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