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惑わすほどに 2
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「渚っ……?おい、渚っ?!」
なんだか身体中が重い。
鉛のように身体が動かない。
「……ッ……」
「おいっ、大丈夫か?」
「なん…で…ここ…」
「覚えてないのか?さっき急に倒れたんだよ。」
倒れた?
あぁ、公園で……か。
確かに、さっきまで公園で色んなことが繰り広げられてたっけな。
その話の途中で俺は倒れて、マンションに連れて帰ってこられたってことか。
不思議と冷静に思い出せる公園での状況。
だけど、倒れた後の記憶は全くない。
確かに、ずっと頭痛は取れなかったけど、そんなことにかまっている状況でもなかったし、それにあんな事実を突き付けられたんだ、倒れもするだろ。
目の前の橘の顔を見てるだけで嫌な感情が倍増して、それを振り払うかように身を捩ると、
「まだ寝てろっ!まだ身体、こんなに熱いくせに。」
そう言って俺の身体をベッドへと押し戻された。
身体がベッドに沈む感触と同時に、枕やシーツに染み付いた橘の香りが舞って…胸が少し痛くなる。
そして、すぐに伸びてきた橘の手。
その手のひらが、何の迷いもなく俺の額に当てられそうになって、何故か俺は無意識にその手を払いのけてしまった。
「さっ触るなっ!!」
「な…ぎさ……?」
「俺のことなんか……」
ほっとけばいいだろ。
全てが否定的にしか考えられず、とにかく今はほっといて欲しい。
頭の中がとにかくぐちゃぐちゃで、色んな感情が涌き出ては消え、あんなに信じていたはずのこいつのことを今はどう信じたらいいのかさえ分からない。
それぐらい、あの事実は俺には衝撃的な事だった。
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