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惑わすほどに 4
「渚……わかったから少し休め。具合がよくなったら結婚の件、話するから…だから」
静かに優しくあやすように語られる残酷な事実に、俺は返事をしなかった。
……と、言うかできなかった。
素直に頷いてしまったら、受け入れてしまったみたいで悔しい。
だから返事をする代わりに大きなため息を吐いて、布団を頭まですっぽり被った。
話なんか聞きたくない。
もう何も聞きたくない。
今さらそんな話を聞いてなにになるんだよ。
俺たちが別れることには変わりはないんだ。
所詮、コロッケパンの合間の焼きそばパンなだけだった。
初めからずっとそうだったんだ、きっと。
橘が部屋を出て扉が閉まる音が室内に響いて静寂が広がると、更に胸が苦しくなって油断したら泣いてしまいそうだった。
あと1年とちょっと……
俺たちのタイムリミット
馬鹿馬鹿しいにも程があるだろ。
何で、終わる関係と知ってて始めたんだ、アイツは……
俺ならそんな無意味なこと絶対しない。
だけど、もしも俺が橘の立場で本気で好きな奴が出来たら……始めてしまうのかもしれない。
それが終わると分かっていても、好きな気持ちは────
俺が橘を本気で好きなように、あいつもそれくらい俺を好きだから始めてしまった………なら、許してやってもいいかな、悔しいけど。
そして、
溢れそうになる涙を飲み込むように強く目を瞑って、全てを忘れてしまえるようにと……俺はそのまま深い眠りに着いた。
俺もアイツも、矛盾だらけだな……
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