452 / 498

惑わすほどに 4

「渚……わかったから少し休め。具合がよくなったら結婚の件、話するから…だから」 静かに優しくあやすように語られる残酷な事実に、俺は返事をしなかった。 ……と、言うかできなかった。 素直に頷いてしまったら、受け入れてしまったみたいで悔しい。 だから返事をする代わりに大きなため息を吐いて、布団を頭まですっぽり被った。 話なんか聞きたくない。 もう何も聞きたくない。 今さらそんな話を聞いてなにになるんだよ。 俺たちが別れることには変わりはないんだ。 所詮、コロッケパンの合間の焼きそばパンなだけだった。 初めからずっとそうだったんだ、きっと。 橘が部屋を出て扉が閉まる音が室内に響いて静寂が広がると、更に胸が苦しくなって油断したら泣いてしまいそうだった。 あと1年とちょっと…… 俺たちのタイムリミット 馬鹿馬鹿しいにも程があるだろ。 何で、終わる関係と知ってて始めたんだ、アイツは…… 俺ならそんな無意味なこと絶対しない。 だけど、もしも俺が橘の立場で本気で好きな奴が出来たら……始めてしまうのかもしれない。 それが終わると分かっていても、好きな気持ちは──── 俺が橘を本気で好きなように、あいつもそれくらい俺を好きだから始めてしまった………なら、許してやってもいいかな、悔しいけど。 そして、 溢れそうになる涙を飲み込むように強く目を瞑って、全てを忘れてしまえるようにと……俺はそのまま深い眠りに着いた。 俺もアイツも、矛盾だらけだな……

ともだちにシェアしよう!