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惑わすほどに 7

橘が部屋を出てから少しして聞こえてきた話声。 息を殺して聞き耳を立ててるけど……ドアを隔てるからさすがに内容までは聞こえない。 それでも時々聞こえてくる橘の声に、相手が誰なのか何となく分かってしまった。 多分、さっきまで話していた許嫁とかって人だと思う。 だって時々、“……ちゃん”とか聞こえてくる橘の声はいつもよりも優しげで…明らかに普段と違う。 「“……ちゃん”とかって…なんだよ、橘のくせに…気持ちわりー」 無意識に発した言葉は思いの外皮肉めいてた。 常に俺様のアイツなのに、いつもとは違うそんな態度に、これが“許嫁”ってやつか…と思い知らされた気がする。 そんな事実を目の当たりにして、俺は…もっと辛くなってしまった。 此処にこれ以上いたくない…… そしてそんな気持ちがふつふつと沸き上がり、気付いたら身体を起き上がらせフラつく足どりでベッドから出ていた。 さっきの橘じゃないけど、正直振り回されるのも疲れたし、少しアイツの顔を見ないで気持ちを落ち着かせたい。 そう思って、俺は部屋を出るため身支度を整えると、ドアに手を掛けた。 そしてリビングに続くドアの前まで来ると、二人の会話はより鮮明に聞こえてきて、話の内容まで聞き取れるまでになった。

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