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惑わすほどに 9

「別に…気にしないでください。俺は、もう帰るんで……」 俺の態度に少し驚いてるようだった小春ちゃん。彼女には悪いけど、俺の機嫌は最悪になりつつあったからそれだけ言って二人の横を通り過ぎようとした。 なのに、それを許してくれなかったのは案の定橘で…… 「渚っ、待てよっ!別に帰らなくたっていいじゃねーかっ!それにまだ顔色よくないだろっ!」 俺の腕を掴んで少しだけ焦った顔でそんなことを言ってきたけど、素直に頷ける訳がない。 “ほっといてくれ” そう込み上げてきた言葉を飲み込む。 そして無言のまま掴まれた腕を振り払い玄関へと向かった。 そんな一部始終を、小春ちゃんが泣きそうになっているのが視界の端に見えたけど…… 俺は気付かないフリをして、玄関のドアを開けた。 こんな自分がだんだんとイヤになってくる。 橘のことが絡むといつもそうだ。 こんなに俺って心狭かったっけ…… 自問自答しながらも答えなんて出やしない。 きっと、答えが分かるくらいならこんな気持ちにもならないんだと思う。 ……もう、どうだっていい そんな投げやりな気持ちが募り、早く此処からいなくなりたくてたまらなくなってしまった俺は、逃げるように外へと飛び出した。

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