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惑わすほどに 16

怒鳴るまではいかないけど、静かな廊下に響きわたるその声は一際響いて、それで少しだけ分かった気がする。 もしかしたら…… 「先生は…自分が成し遂げられなかった過去を俺たちに……」 「ばーかっ。橘が居なくなったあの時の渚の顔が忘れられないからだ。」 「顔?」 「あの時の渚、確かに余裕はなかっただろうけど、橘への想いに真っ直ぐでいい顔してたんだよ。なのに、今のおまえ……最悪だ。」 最悪だと言われた瞬間、胸にグサッとナイフで刺されたような鋭い痛みを感じた。 「もう一度落ち着いて考えろ。本気で好きなら乗り越えられない筈はない。それに……橘はそんな簡単に渚を裏切る奴じゃねーよ。」 「そんなの……」 「忘れたか?俺は生徒会の顧問だぞ。2年間アイツ見てきてんだ、まぁ、大体のことは分かるし…誰が本気で好きかくらい分かるんだよ。」 いつものチャラ男とはまるで別人の真面目な望月。 こいつが他人に妙に鋭いとこあるから納得させられたのか…… それとも、 もっと違う理由なのか…… だけど、 気付いたら俺は、首を小さく縦に振っていた。

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