464 / 498
惑わすほどに 16
怒鳴るまではいかないけど、静かな廊下に響きわたるその声は一際響いて、それで少しだけ分かった気がする。
もしかしたら……
「先生は…自分が成し遂げられなかった過去を俺たちに……」
「ばーかっ。橘が居なくなったあの時の渚の顔が忘れられないからだ。」
「顔?」
「あの時の渚、確かに余裕はなかっただろうけど、橘への想いに真っ直ぐでいい顔してたんだよ。なのに、今のおまえ……最悪だ。」
最悪だと言われた瞬間、胸にグサッとナイフで刺されたような鋭い痛みを感じた。
「もう一度落ち着いて考えろ。本気で好きなら乗り越えられない筈はない。それに……橘はそんな簡単に渚を裏切る奴じゃねーよ。」
「そんなの……」
「忘れたか?俺は生徒会の顧問だぞ。2年間アイツ見てきてんだ、まぁ、大体のことは分かるし…誰が本気で好きかくらい分かるんだよ。」
いつものチャラ男とはまるで別人の真面目な望月。
こいつが他人に妙に鋭いとこあるから納得させられたのか……
それとも、
もっと違う理由なのか……
だけど、
気付いたら俺は、首を小さく縦に振っていた。
ともだちにシェアしよう!