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惑わすほどに 25
「……橘のうちってマジですげーんだな。」
そりゃ許嫁の一人や二人いるに決まってるよ。
「凄いって…別に普通だろ。」
はぁ?おまえんちが普通だったら、サラリーマン家庭のうちなんかどうなるんだって言おうとして飲み込んだ。
なんか色々別世界すぎて言う気も失せたから。
「渚?どうかしたか?」
「…べ、べつに」
それに、そんな金持ち坊っちゃんが許嫁も解消して男の俺を選ぶって、やっぱり冗談抜きにマズイし、跡継ぎだって……
そんな風に、事の重大さを理解すればするほど弱気になるっていく意気地無しな俺。
「それで、話を戻すけど……いいか?」
「ちょっ…ちょっと…と待って。俺なんかで…本当にいいのかよ。だってさ、将来おまえが社長になって……」
俺たちがずっと一緒に居れるわけもないし、絶対…俺、そのうち足手まといになんだろ。
「やっぱり、社長になるなら将来は普通に結婚して普通の人生を送った方が────」
いいだろって…言おうとした瞬間、橘に凄い形相で睨まれる。
「普通ってなんだよっ!!オレは、そんな普通なんて…望んでない!」
「た…たちば…な…?!」
そのまま鋭い目で俺を捕らえ、見たこともない程の真剣な表情の橘からは俺様な雰囲気はゼロで…俺の頭ん中は一瞬で真っ白になった。
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