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惑わすほどに 30

俺の目の前から突然いなくなったあの日のことがこんなにトラウマになっているなんて、自分でも想定外だった。 もう二度とあんな苦しい思いはしたくない。 だから、無意識に心にブレーキをかけてるのか、気付いたらその想いを吐き出していた。 「……俺、どうしたらいいか本当にわかんねーんだよ。自分の気持ちがどうしたいんだか、自分のことなのに。おまえを信じたい気持ちと、でもまたいなくなるんじゃないかって思うと信じられねー気持ちと…。」 「分かるよ、渚が不安になるのも、オレを信じきれない気持ちも。でも、オレは今ここにいる。覚えてるか?必ず半年で帰るから待って欲しいって言ったの。」 「う…うん。」 「それ以上経っても帰らなかったらオレの事忘れてくれって言ったのも……」 「覚えてるよ。“オレも忘れるから渚も忘れて欲しい”って、ほっしーから聞いたし。」 「あぁ。渚が怒るだろうとは思ったけど、でも半年で帰る気で動いてたし、渚を手放すつもりもなかったからそう言ったのはある種の追い込みみたいなものだった。」 そういえば、ほっしーが言ってた。 “ゆうちゃん、自分を追い込む時って本気の時だから” って。 ほっしーはやっぱり橘のことよく分かってんだな。 でも俺は、そんな思惑なんて気付くはずもなく、結局はまた惑わされていたってことか。 でも、追い込むって…… 「追い込むって、そこまでして行かなきゃならなかったのかよ。」 「さっきから言ってるよな?“将来”を見据えてオレは動いてたって。何かを得る為には何かを犠牲にしなきゃならない。オレは、“今”を犠牲にしても“未来”を手に入れたかったんだ……渚と一緒の。」

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