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惑わすほどに 39

何かと理由をつけて襲いかかろうとした橘を一喝して身体を押し退ける。 まったく、油断も隙もあったもんじゃない。 でもいつも通りに戻ったみたいでよかった、けど。 「渚…じゃあ、これくらいはいいだろ?」 そして、さっきより真顔でそう言われ俺はあっという間に胸の中に抱き寄せられた。 そのまま、橘の顔が近付いてきた……と思ったら、唇が触れる直前でその動きが止まる。 「渚……?」 「ど…どうしたんだよ。」 当然キスされると思ったのに、目の前の橘はそのまま話を続け出したから、瞑りそうになった目を急いで開けた。 「……オレ、桜見ると渚と初めて会った時を思い出すんだ。」 「は……?!えっと…それって……」 「渚が知りたがってたオレたちの出逢い…教えてやるよ。」 そう言うと、耳元に唇を寄せながら、その“出逢い”とやらを話してくれた。 「…────って、わけ。」 「全然忘れてた……つか、なんか…ごめん。」 「別に謝らなくていいよ。オレだって気付いてなかったんだろ?」 「う…うん。」 橘が教えてくれた俺たちの出逢い…… それは、俺が入学間もない頃に、別棟への移動教室の度に迷子になってるのをたまたま見かけたのが始まりらしい。 俺も、入学してすぐだったから友達とかもまだいなくて、一人で迷子になってのは覚えてるけど、橘のことは正直覚えてなかった。

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