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惑わすほどに 40

「まぁ、あの頃とオレ雰囲気違ってたと思うし仕方ねーよ。」 そう橘が言うのも無理はない。 だってこいつは当時、眼鏡だった…らしい。 確かに、一回だけ眼鏡男子に助けられたような気もするけど…やっぱりうろ覚え。 「オレが生徒会絡みで時間潰してる時に、渚を見かけて…あ、また迷子になってるって眺めてたんだけど、あまりにも泣きそうだったから声掛けたんだよ。」 「その眼鏡男子が橘だったってわけか。んで?どのタイミング?」 「何が?」 「橘が言う“恋に堕ちた笑顔”」 「そこだよ。」 「だからどこだよ?!」 「道を教えてやった時に、渚が礼を言って笑った時。」 「はぁ?!そんだけで?!」 「そうだよ、文句あるか。」 「い、いや…ないけど。」 まさか俺の笑顔がそんな破壊力あるなんて…つーか、そんな簡単に恋に堕ちるかよ、普通。 「なんか不服そうだな?」 「……そんな簡単に人を好きになるもんかなぁと思ってさ。」 「まぁ、それが“運命の赤い糸”ってやつなんだろ。」 「運命………」 いつもなら何とも思わずちゃかしちまうようなクサイ台詞なのに、何故か不思議と納得してしまった。 「そう。桜の季節はオレにとって特別で、一番好きな季節。だから、桜が咲いたら……こうして、毎年必ず一緒に見に行こうな。」 桜色みたいに淡いピンク色の恋心。 本当に“運命の赤い糸”があるのなら、 それが橘と繋がっているのなら、 このまま二度と切れないで欲しい。 ────このまま、何年、何十年先も。 俺は…そう、心で強く思いながら、 「うん。」 ……と、返事をした。 ──────── ────── ────

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