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3話-①:ワガママで居させて

樹李がワイン三杯辺りで楽しく緩やかな流れが変わっていった。 「唯の肌すべすべだ。ボディークリームは何使ってるの? なんか嗅いだことある匂い……」 「えっと、それは……」 樹李と同じボディークリームを使ってるなんて言えない…! それになにこれ!? 推しが、俺の身体に密着してるってどうゆう状況? まって、思考が追いつかない……。保て俺の理性、保て俺のアイドル状態(オン状態)! 「ん〜? もうグラス空になっちゃった……」 樹李がグラスを傾け無いことを示す。猫なで声でもう一杯飲も? なんて言ってくるのを辛うじて阻止し、素早く会計するとタクシーに突っ込む。 「もうお開き? まだヤダ」 「でも、明日は撮影だし」 「撮影、お昼からじゃん」 そう言いながら樹李は俺の手を握る。樹李の上目遣いに、懇願する柔らかな掌に最後は完敗してしまう。 「……もう一軒だけね、1時間で帰るからね」 「やった!」 その天使のような、はたまた小悪魔のような笑みにもうノックダウンです……! 俺はまたお店を探そうとすると、樹李がぱた、と俺のスマホを手で隠した。 「次は僕の家で飲も?」 え………、と思わず固まってしまい、スマホを落としかける。 「いくらなんでも流石に、迷惑じゃないかな……?」 「僕がいいって言ってるんだからいいの」 むぅ、とムニムニのほっぺを膨らませながら言う樹李に完敗するしかない。何なの、自分の可愛いっていう武器を120パーセント生かしすぎじゃない? ほら〜、と絡んでくる腕を振り払えず、ほわほわとした気分のまま樹李が伝える住所をぼーっと聞くしか無かった。 タクシーが止まる頃には樹李はくぅくぅ寝息をたてていた。でもそれより何よりここは、俺の家の前だ。どういう事だ? 住所は確かに樹李が伝えていたし、俺は1度も樹李を自分の家に連れて行ったことは無い。何故なら、家がオタク部屋だからだ。それを本人に見られようものならその勢いのまま飛び降りる覚悟も出来ている。せめて、来るなら一日は猶予が欲しい。じゃないと招くなんて絶対無理だ。 寝ている樹李を起こすのも可哀想だけど、聞かない限りここを降りれない。タクシーの運転手も困ってしまう。とりあえずタクシー代だけ払って樹李の肩を揺する。 「樹李、着いたみたいだけどここであってる?」 「うん、ここであってる」 樹李は目を擦りながら俺に促されるがまま車から出る。 「俺も実は家ここなんだよね……。まさか同じとは思わなかったよ」 樹李は小さい声で何か言っていたが、聞き取れなかった。 「じゃあ、部屋に案内するね」 樹李は俺の手を引っ張っていたずらっ子の笑みで笑う。案内されたのは偶然にも俺の上の階だった。こんな奇跡ある? という事は一歩間違えたらオフの樹李と鉢合わせちゃうかもという事!? 「唯、入らないの?」 「いや、ううん、入る!」 俺は憧れの相手の部屋にこんな形で入る事になったのだ。

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