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3話-②:ワガママで居させて
俺の大好きな唯がここにいるなんて。なんとも信じられない状況だけれど、本当の話なのだ。唯が自分の家の下に住んでいる事は知っていたけど、唯は僕がこの前挨拶したと言うのを知らない。だからギリギリ唯はオフの時の僕を知らない。それは箕輪樹李のイメージを崩さないためにも、もちろん唯も含めて誰にも秘密なのに。僕は馬鹿だ。酔っ払った勢いで家で飲もうって提案をしたら叶ってしまって、唯は目の前で少し居ずらそうに何度も正座の姿勢を正している。
もうとっくに酔いは覚めてしまったけれど、今程酔っ払いたいと思った事は無い。こんなの、素面じゃ耐えられない。とりあえず家にあった日本酒を持ってく。
「ごめん、今日本酒しかなかったんだけど、割り方何かある?」
「じゃ、じゃあ冷酒で……」
僕もこれは冷酒で飲んでまた酔っ払ってしまおうと、同じのを2つ作る。
「樹李も冷酒にするの? 大丈夫?」
「大丈夫、冷酒好きだから」
嘘だ。日本酒は好きだけど冷酒は酔っ払うからいつも何かしらで割って飲む。それを悟られないようにしなければ。とりあえず適当に冷蔵庫にあったツマミになりそうなものをお皿に盛って、唯の所へ持っていく。唯と2度目の乾杯をして、一気に呷った。
「ちょ、そんな勢いよく飲んだら……」
「ふぇ? なに?」
頭がクラクラする。ふわふわして、唯の顔が、近いような気も……。
「いくらなんでもそれは……ほら、樹李、お水飲も?」
それじゃあせっかく酔っ払ったのに意味なくなっちゃう。僕は首を振ると唯は少し困った顔をする。そんな顔すらもかっこよすぎて顔が熱くなる。
「じゃあ、せめてこれは外そう? 苦しくなっちゃう」
唯の手が僕の方へするりと伸びる。陶磁器のような滑らかな肌が僕の首を撫でた。待って、もしかして、これは。
僕の静止が間に合う前にチョーカーは外れてしまう。
「だ……め……唯、君……それ……返して……!」
いつも以上に上手く回らない呂律にもどかしくなりながら必死に取り返そうとすると唯君にダメだよ、と諭される。
「今首元締めたら余計気持ち悪くなっちゃうよ」
唯君は僕の頭をそっと倒して膝の上に乗せてくれる。その温もりと唯君の感触にドキドキしてしまう。
「ほら、ちょっと寝て回復しよう? 本当はお水飲んだ方がいいんだけど」
唯君はあ、そうだ、と何か閃いた顔で自分の荷物を漁るとペットボトルの水を取り出す。そして僕の背中を支えながら上半身だけ起こさせてくれた。
「一人で飲むのが辛かったのかなって思って。これなら飲めそう?」
飲めないよ……! 緊張しちゃって無理だって……!
「ゆっくりでいいからね」
唯は僕の唇にペットボトルの縁をあてがうと飲みやすい様な角度で飲ませてくれる。
こ、これは、もはや授乳……? なんて突拍子もない事を考えながら一生懸命水を飲む。だけど、あまりのその状況に耐えられなくて口からドバドバと水が溢れる。
「わ! ごめん。大丈夫……?」
「だ、大丈夫じゃ……! いや、大丈夫だけど……」
このキャパオーバーの状況どうにかして……。僕は力尽きてそのまま唯の膝の上でダウンする。それを見た唯は僕の額に手を当てた。
「俺の手、冷たいからちょっとは酔い覚めると思うから」
「あ、り……がとう」
寧ろ緊張して体温上がりそう、とは言えず僕は必死に寝たフリをするのだった。
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