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(寒い、おなか……痛い)
動かなければと思うのに、体が言うことをまったく聞いてくれなかった。体はガタガタと震えているし、濯 ぐことができないままの口の中には精液の味がこびりつき、ねばついて、気持ちが悪くてしかたがない。
(きもちわるい。もう……嫌だ)
まさか、旭がここまでするなんて、想像すらしていなかった。
『明日も来い』
帰りがけ、背後から響いた旭の命令。
きっと、明日も今日と同じようなことをされるのだろう。旭は蒼生の為だと言うが、蒼生の声を聞いてはくれない。
(……辛い)
視界には雪がちらつきはじめ、このまま意識を落としてしまえば、楽になれるかもしれない……などという考えがわいてきた。それでもいいと思った蒼生は、降ってくる雪を眺めながら、じっとその時を待ってみたけれど、胃を蝕 む激しい痛みは、現実からの逃避をなかなか許してくれない。
(……ダメ……だ)
生きているのが辛いと思っていた時に、旭だけがそれに気づいて、蒼生に存在理由をくれた。だから、彼がくれる命令を、嫌だなんて思ってはいけない。
分かってる。分かってるけれど……。
「やっぱりここにいた。君、大丈夫?」
ふと、頭の上から男の声が響いてきた。
こんな奥まった路地裏に、わざわざ立ち寄る人なんていないはずだから、幻聴だろうと思った蒼生が返事も出来ずに呻いていると、「これは……全然大丈夫じゃないな」と、違う男の声がする。
「微 かな匂いだったけど、来てみてよかった」
「だな。疑ってごめん。で、どうする? 救急車呼ぶか?」
「んー、そうだなぁ……どうしよう。君 はどうしたい?」
「っ!」
心配そうな声音で問いながら、男が傍 らに膝をつき、そっと頬へと触れてきた。刹那、まるで電流が流れたみたいに蒼生の体は細かく震える。
「うぅっ……うぅっ」
こみ上げるのを我慢出来ずに嘔吐をすれば、「ごめん」と囁く声が聞こえ、優しい手つきでそっと背中をさすられた。さらに、精液混じりの胃液を吐き出す蒼生の姿を蔑 むことなく、「がんばれ」と何度も声をかけてくれる。背後から、もう片方の男が「クソが」と吐き捨てるように呟く声が聞こえてきた。
「白石、この子たぶんSubドロップに入ってる。とりあえず連れて帰るから、明日までに全部調べて」
「分かった」
「よく頑張った。君はいったん眠りなさい」
男はそう言いながら、吐き終えた蒼生の体を優しく抱きしめる。
「――っ!」
途端、声にならない悲鳴を上げた蒼生の体は痙攣し、それからガクリと脱力した。
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