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「決めた。この子を俺のにする」 「(りつ)、待てよ。まだ素性(すじょう)も知れないし、その子の意思もあるだろ? 連れて帰って医者を呼ぶのには賛成だけど、虐待受けてるSubを保護したんだから、まずは警察に届けないと……」 「白石」  青年を腕に抱いたまま、白石の言う一般論を名前を呼ぶことで封じる。と、「……しょうがないな。じゃあ、その子が起きて、話を聞いてから判断しよう」と答えた彼は、「車を取ってくるから、道で待ってろ」と言い残し、足早にその場を立ち去った。  白石が、青年を連れて帰ることに賛成したのは、律と同様の懸念を抱いたからだろう。  すぐに警察へ届けたところで、加害者のDomが否定をすれば、話もろくに聞かれないまま、Subが求めたプレイとされる可能性は残念ながら低くはない。ならば、事の詳細が分かるまで、律が保護したほうがいい。 「……いい匂い」  さっきまで小降りだった雪は、すでに綿雪(わたゆき)へ変わっているから、明日になれば予報通り積もっていることだろう。 「……軽い」  抱き上げてみた青年の体は想像以上に軽かった。まるで、儚い雪のようだと思い、律は白いため息を漏らす。 「辛かったな。でも――」  近くにある街頭の下まで歩いた律は立ち止まり、青年の顔を見下ろしながら、「もう大丈夫。俺が君を見つけたから」と、笑みを浮かべて囁いた。  ***  この世の中には男女の性別とは別に、男女の性別とは異なる性、DomとSubとが少数ながら存在し、第二性徴を迎えた頃に、はっきりと発現する。  DomにはSubを支配したいという本能が、subはDomに支配されたいという本能が、身体的な成長と共に強くなるが、発現率が少ないために、SMといった性的嗜好と長らく混同されがちだった。  嗜好とはっきり違うところは、欲求が満たされないと体調不良を起こしたり、心的不調を引き起こし、酷い場合は命に関わることもあるところだ。  とりわけSubは、その特性から危険な目にあうことが多く、支配されたいという欲求を満たすために、望まぬ行為を強いられる事案は後を絶たない。 「いくら平等って言っても、それは表面だけで、Subの立場は弱いっていうのが現状だ」   青年を保護した翌日の夕方、幼なじみで親友でもある白石龍真(しらいしたつま)が家を訪れた。  彼が差し出した封筒を手に取り、「分かってる。さすが白石、仕事が速いな」と答えた律は、中から書類を取り出した。  白石は、律の経営するベンチャー企業で取締役についており、片腕として優れた手腕をふるっている。幼い頃から律の一番の理解者で、片腕というよりも、家族に近い存在だ。

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