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「ご……ごめんなさい」
なにに対しての謝罪なのか? 言っている本人にさえ、きっと分かっていないだろう。
長い睫毛 を震わせながら、体を晒す姿を見て……これは、未熟なDomでは理性を保つのが難しいと律は思った。
「もう、こんなことはさせないから、怖がらなくていい」
あばらが浮いた腹の脇へと手のひらで触れ、鬱血跡を撫でながら、「痛かったよな」と声をかける。
「うっ……うぅっ」
すると、張りつめた糸が切れたかのように蒼生の体から力が抜け、ふらついた体を支えてやれば、腕へと縋りついてきた。
「泣いてもいいよ」
華奢な体を抱き締めてから、目尻にそっと口づける。すると、まるで堰を切ったかのように、蒼生の目からは涙が溢れ、泣き疲れて眠りにつくまで、か細い嗚咽を漏らし続けた。
***
再び蒼生が目覚めた時、世界は色を変えていた。
いつもより、頭の中がクリアになっているのが分かる。体はまだ怠 いけれど、これまで常に感じていた得体の知れない恐怖心は、すっかり陰を潜めていた。
「おはよう。少しは落ち着いた?」
聞き慣れた声に頷きながら、焦点が合うのを待つと、律の顔が見えてきたから、蒼生は安堵の息を漏らした。
「……おはようございます」
無意識のうち、端正な顔に手を伸ばし、頬へ触れながら返事をすれば、一瞬だけ驚いたような表情を見せた律は微笑み、「少し顔色が良くなった」と告げてきた。
視線を動かし周りを見ると、白を基調とした広い室内にいるのが分かる。蒼生は大きなソファーの上で、律によって膝枕をされていた。
「あっ、ごめんなさい」
すぐに起き上がろうとしたけれど、額に手のひらを乗せた律が、「このままでいい」と告げてきたから、蒼生はいったん動きを止める。それは、コマンドを使った命令などではなかったが、心地よい声音に緊張が解けて蒼生は体の力を抜いた。
「さっきは勝手にコントロールを奪ってごめん。危険な状態だったから、助けたいって思ったけど……それも賭だったから、うまくいったみたいでよかった」
「……危険?」
自分になにが起きていたのか? 分からないから首を傾 げれば、「保護した時、蒼生くんはSubドロップに陥ってたんだ」と答えた律は、困ったような笑みを浮かべる。
「蒼生くんは、藤堂旭にSubとしてのコントロールを預けてた。それが強制的か自発的かは分からないけど、状況からアフターケアがされていたとは思えない。だから――」
蒼生は不眠や慢性的な体調不良に陥り、そんな蒼生を省みないで、旭が無理な要求を繰り返した結果、下手をすれば命に関わる状態になってしまっていた。と、律は丁寧に説明を続けた。
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