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「あの、なんで……旭を知ってるんですか?」  蒼生を保護しただけの律が、どうして旭のことを知っているのだろう? 疑問に思って尋ねると、「調べさせてもらったんだ」と答えた律は話を続ける。 「蒼生くんの体にあった痣を見て、事件性があるんじゃないかと考えたから……もし暴行事件なら、警察に届けないといけないしね」 「それは……困ります」  律が話し終わる前に、思わず声が出てしまった。警察になんか届けたら、旭は怒るに違いないし、保護した律にも迷惑がかかるかもしれない。   「大丈夫だよ。蒼生くんがダメって言うならしないから」  あやすように頬を撫でられ、ホッとしたように蒼生は小さく頷いた。 「蒼生くんを連れて帰ってすぐに医師を呼んだけど、抑制剤は強い薬だから、弱ってる今の状態じゃ処方できないって言われた。だから、俺が抑制剤を飲めばいいって思ったんだけど、それも止められた。おかげで最悪は回避できたけど……」  医師がこの事態を予測したから、旭からのコントロールを奪い取れた……と、律は言う。 「蒼生くんの意志を無視する形になったのは……ごめん。でも、いつまたフラッシュバックするか分からないから、ここで療養する間だけ、コントロールを委ねてくれないか?」 「え?」  突然の申し出に驚いている蒼生の頬を、手のひらでそっと包み込み、「蒼生くんが嫌がることは絶対にしないって約束するから、とりあえず、抑制剤を飲めるようになるまで……どう?」と、律が問いかけてくる。さらに、考えがうまくまとまらず、答えに詰まってしまった蒼生を急かすことなく、「ゆっくりでいい」と言ってくれた。 (ありがたいけど、これ以上……この人に甘えちゃいけない。だから……) 「助けてくれてありがとうございます。でも、僕は……あなたを知らない」  少しして、ようやくそこまで言葉を紡ぐが、哀しそうに眉尻を下げる律を見て、蒼生の心に言いようのない切ない気持ちが滲んでくる。 (そうだ……)  今の状況なら蒼生を無理やり支配することもできるのに、律はそうしなかった。 (それに……褒めてくれた)  彼はDomなのに、旭のような威圧感はまったくない。いい匂いが常にするし、そばにいるのが心地よかった。 (だから、僕は……) 「……だけど、あなたを、知りたいと……思います」  自然にこぼれた自分の答えに蒼生は内心戸惑うけれど、微笑んだ律が「まずは、俺を知ってから考える……ってことでいい?」と、尋ねてきたから、「はい」と言いながら頷き返した。 「ありがとう」  感謝の言葉を向けられたのは、どれくらいぶりのことだろう? 綺麗な瞳を真っ直ぐに向けられ、頬へと熱が集まってくる。

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