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「顔が赤い。少し疲れちゃったかな?」
頬にある手が額へと動き、「熱は無さそうだ。蒼生くんはかなり弱ってるから、眠たかったら寝ていいよ」と言った律は、自分のことを話しはじめた。
律の年齢は26歳。職業は会社経営で、大学の時に起業した事業が今のところはうまくいっているということ。
今現在、恋人はいないということ。
趣味は体を動かすことで、平日の夜や休日には、友人達とフットサルをしているが、先日はその帰り道で蒼生を見つけたのだと言った。
「凍える前に見つけられて本当に良かった。あの時降り始めた雪が、今はだいぶ積もってる。だから、高校は休校になってるはずだ」
「……よかった」
ならば、旭の命令を破ったことにはならない……と、安堵の息を漏らした蒼生の思考を読みとったかのように、「蒼生くんは、藤堂旭と付き合ってるの?」と律が訊 いてくる。
「いいえ……それは無いです」
「そう。でも、蒼生くんは彼のことが好きなのかな?」
「旭は……僕が初めて好きになった人です。でも……今は分からない」
素直な気持ちを口にするのは初めてのことだった。不思議なことに、律の前だと自分の心に蓋をすることができなくなる。
「なるほど。蒼生くんは彼がDomだから惹かれたのかな?」
「分からない……です。でも、旭は悪くない。きっと、僕が気持を隠しきれなくて、気持ち悪い思いをさせたから……」
きっとそれがきっかけで、優しかった旭が豹変したのだと……途切れ途切れに返事をすれば、「ごめん。意地悪な質問だった」と謝った律は「でも、あくまでも君は被害者だ」と告げてくる。
「蒼生くんの気持ちに気づいて、それに応えられないなら、離れれば良かっただけの話だ。そうしなかった藤堂旭に問題がある。彼には他にもSubがいるけど、蒼生くんだけが抑制剤を禁止されて暴行を受けてた。彼は自分の支配欲を満たすために、告発できない立場にいる蒼生くんを利用したんだと思う」
「僕の……他にも?」
旭に他のSubがいたとしてもおかしくないし、恋人がいたとして、蒼生に告げる義理も無いだろう。けれど、はっきり言葉にされたことで、蒼生の胸はキリリと痛んだ。
(……そう……だよな)
旭の態度が変わった時から、蒼生は常に蔑 まれてきた。だから、旭が自分を好きになるはずが無いことくらい分かっていた。
分かっていたが、気づきたくなかった。
優しくされた記憶に縋り、いつかは昔の旭に戻ってくれるかもしれないなどと、淡い期待を抱いていたのだ。
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