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(だから、僕は……被害者じゃない)
結果的には旭から支配されることに、悦びを感じていたのだから、選んだのは自分なのだと律に伝えたいけれど、声は音にならないまま小さな嗚咽に形を変えた。
「いっぱい泣いて、忘れちゃおうか」
知らぬ間にこぼれた涙を律が長い指先で拭い、「一般的に、初恋は叶わないっていうから……ね」と告げてくる。
(この人は、優しい)
蒼生がきちんと自分の気持ちと向き合えるように、言いづらいことを言ってくれた。どうしてここまでしてくれるのか? 理由を尋ねたいけれど、嗚咽が邪魔して声にならない。ここに来てから泣いてばかりだと情けないような気持ちになった。
「疲れたらそのまま寝ていい。ベッドには運んであげるから」
「ん……んぅ」
柔らかな声に頷きながら、蒼生は涙を流し続ける。その間、一度ソファーを離れた律は、濡れたタオルを手にして戻り、優しく顔を拭ってくれた。
「少し落ち着いたかな?」
どれくらい時が経っただろう? 耳たぶへ触れた律の指先が、そこをゆるゆると弄ぶのが、気持ち良くて吐息が漏れる。
(この人なら……信じていい?)
「……もう、大丈夫です。ありがとう……ございます」
「気にしないで。俺で良かったら好きなだけ甘えていいから」
「……あっ」
気づいたときには抱き上げられ、膝の上へと乗せられていた。抱き締められた蒼生は無意識に律の肩へと頬をすり寄せる。
「嫌じゃない?」
耳元で響く声に頷けば、「よかった」と囁いた律は、「蒼生くん、さっきの答えはでた?」と問いかけてきた。
『コントロールを委ねてほしい』と言われた時には戸惑ったけれど、律の腕の中にいると、旭のことを断ち切るためには、それしか方法が無いようにさえ思えてくる。
「迷惑に……なりませんか?」
「そう思ってたら提案しない。蒼生くんは、自分の心にだけ素直になればいい。で、俺の心配をしてるってことは、蒼生くんの気持ちは決まったってことでいい?」
まるで心を読んだかのような律の発言は的確で、蒼生はもう認めることしかできなくなった。
「……はい、お願いします」
顔を上げて返事をすると、「ありがとう」と答えた律は綺麗な笑みを唇に浮かべる。至近距離から見つめられ、恥ずかしくなった蒼生は慌てて視線を逸らした。
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