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   ***  次に蒼生が目覚めた時、辺りは暗くなっていた。常夜灯(じょうやとう)が点いているから、自分がベッドで寝ていることは理解したが、ここまで来た記憶が無い。 (どうしたんだっけ?)  律の提案に同意したあと、早めの夕飯にしようと言われ、出された(かゆ)を食べたことは覚えている。  あとで食べると言った律は、蒼生が食器を空にすると、「えらい」と頭を撫でてくれた。それから、風呂を沸かすから待つように言われ、ソファーに座っていたのだが――。 (また、迷惑かけた)  眠ってしまった蒼生を律がここまで運んでくれたのだろうが、広い室内を見渡してみても彼の姿はどこにもない。  (喉、渇いた)  ノロノロと起き上がり、ベッドを降りて移動した蒼生は、2つ並んだドアのひとつを開けようとしたけれど、そこには鍵がかかっていた。もう片方のドアを開くと、センサーがついているのか? 室内の照明がつく。そこにはトイレと洗面台があり、洗面台の脇は透明なドアによって仕切られていて、その奥は広いバスルームになっていた。 (ホテルみたい)  いったん部屋へと戻ってから、ベッドの反対面へ移動して、壁一面にかけられているカーテンを少し開いてみる。と、真っ暗な空に白い雪が舞っていた。 「……綺麗」  思わず声が出るけれど、あまりに小さなそれはすぐに空気へと溶けて消え、再び静寂が訪れる。 (静かだ)  蒼生が一人暮らしをしているアパートは、壁が薄い訳ではないが、時折(ときおり)他人の生活音が聞こえてきた。それに馴れてしまっているため、今の状況はあまりに静かで落ち着かない。  降り続く雪を見ているうちに得体の知れない不安が募り、逃げるようにベッドへ戻った蒼生は布団を頭から被り、体を小さく丸めるが……待ってみても眠気はまったく訪れなかった。 (きっと、誰も気づかない)  今日は休校だったらしいが、仮にそうじゃないとしても、蒼生が休んだくらいでは、旭は心配しないだろう。風邪で数日休んだ時も、理由は尋ねられなかった。ただ、いなかった日に溜まった鬱憤(うっぷん)をまとめてぶつけられただけだ。 (考えたら……ダメだ)  脳裏に浮かんだ旭の姿を振り払うように、蒼生は軽く頭を振る。夜中の思考は不安定になりがちだから、止めなければならないと考え、耳を塞いで瞼を閉じた。  しかし、やはり眠気は訪れず、少しの間そうしていると、どういうわけか体の奥がじわじわと熱くなってくる。 「……なに?」  驚きに声を上げた蒼生だが、この感覚には覚えがあった。Domに命令をされた時、襲ってくる感覚だ。 (なんで?)  それが、どうして今、自分の体を(さいや)むのかはわからない。駄目だと思うのに勝手に手が動いてしまい、気づいたときには自分の下肢へと触れていた。

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