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「うっ……ん」  そのまま、勃ちあがっている性器を(しご)くと、強い愉悦が背筋を這い上がり、快感を追うことだけしか考えられなくなってしまう。 「ふ……うぅっ」  布団の中で無心に自慰へと耽りながら、けれど、決定的な刺激が足りずに蒼生は体をくねらせた。どこか遠くで物音がした気がするが、それがなにかを考えるだけの余裕もない。 「あぅ……ん」 (もっと、もっと……)  親指の腹で亀頭部分を擦りながら、小さく喘いだ蒼生はようやく達しそうになるけれど――次の瞬間、聞こえた声に全ての動きを停止した。 「蒼生?」 「……っ!」  布団越しに響いた声に、我へと返った蒼生の心臓はうるさいくらいに鼓動を速める。  彼はいつからいたのだろう? 羞恥に震える蒼生の耳にベッドの軋む音が聞こえ、律の手のひらが布越しに、そっと背中へと触れてきた。 「顔を見せて」  甘く(とろ)けるような声音に操られ、布団を捲って顔を出せば、「変な時間に寝ちゃったから、目が覚めたんだね」と告げてきた律は額へと触れてくる。 「で、蒼生はなにをしてたの?」 「……あ、ごめん……なさ……」  常夜灯の光だけでは表情がよく分からない。咎められたと思った蒼生は謝ろうとするけれど、「怖がらないで。俺はまだ、なにも禁止してないよ」と言われ、小さく息を吐き出した。 「セーフワードのことは知ってる?」  訊かれて蒼生は頷きかえす。  DomとSubは人口における絶対数が少ないため、属性などの大まかな部分は授業で取り扱うけれど、細かな部分は学校での履修科目には入っていない。そのため、蒼生は自分がSubと知ってから、本などを読んで勉強した。  セーフワードとはDomのコマンドが行き過ぎてしまわぬよう、(あらかじ)めDomとSubとの間で共有しておくワードのことだ。    プレイ中Subがセーフワードを発した場合、Domは行為を止めなければならない。  実際にはセーフワードに拘束力は無いのだが、信頼関係を築くために、Domが守らなければならないルールだと書いてあった。 「決めた事はある?」 「ない……です」 「じゃあ決めちゃおうか。蒼生が言いやすい言葉がいいな。なにかある?」  問われてすぐさま浮かんだ言葉は『レッド』という、マニュアルにあったものだった。それをそのまま口に出せば、「それにしよう」と答えた彼は「絶対に忘れないこと」と、念を押すように告げてくる。  頷いて「はい」と返事をすると、長い腕を伸ばした律が、ベッドヘッドのスイッチを押した。

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