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「気持ちいい?」  陰嚢を緩く揉みながら、尿道口を指で擦ると、「きもちいい」と反芻(はんすう)しながらも蒼生は腰を引こうとする。 「こら、逃げない」 「ううっ」  萎えた性器を少し強めに握り込み、(たしな)めるような口調で告げれば、怯えたように細い体を震わせながら、消え入るような小さな声で「……レッド」と蒼生が呟いた。 「よく言えたね」  すぐに性器から手を離し、蒼生の体を包み込むように抱きしめながら、「偉いよ」と声をかけてやる。と、腕の中にいる蒼生はとうとう声を漏らして泣き始めた。きっと、褒められたことで張りつめていた気持ちの糸が解けたのだろう。セーフワードを言うことに、かなりの葛藤があったはずだ。   「泣かせてごめん。でも、セーフワードを言えるようになって欲しかった。許してくれる?」  頷く蒼生に「ありがとう」と告げてから、少し体を離した律は、赤く色づいた目尻を拭った。  我ながらずるい質問だ……と律は思う。今の蒼生に許さないという選択肢は無いだろう。なにせ、褒められただけで涙を流して喜べるのだ。  答えは分かっていたけれど、あえて言語化することで、蒼生の理解はさらに深まり、律に向けられる信頼は強いものになる。  本当は、キスを命令した時点で、セーフワードを使わせるのが目的だったが、蒼生がキスを受け入れたのは、律にとって嬉しい誤算で収穫は大きなものだった。 「汚れちゃったから、洗おうか」  そう耳元へ甘く囁きながら、シーツで体を包んでやると、泣き止んだ蒼生は安堵したように息を吐き、「はい」と素直に返事をする。  腰が砕けて起きあがれない彼の体を抱き上げ、バスルームへと移動しながら、律は蒼生の唇に……触れるだけのキスをした。驚いたように目を見開いた蒼生だが、何度かキスを繰り返すうち、頬を染めながら従順にそれを受け入れるようになる。  きっと、軽くサブスペースに入ってしまっているのだろう。この調子ならば、一緒に風呂へ入ることにも拒絶は示さないはずだ。 (もう、手放せないかもしれないな)  少し優しくしただけで、たやすく心を預けてしまう危うさは、蒼生にとって幸か不幸か分からない。  けれど――。  こちらを見上げる濡れた漆黒の瞳に笑みを返しながら、理想のSubを手に入れた……と、この時律は思っていた。

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