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ダイニングにある壁時計は、11時を示している。
彼らに助けてもらってから、たぶん2日が過ぎているが、白石がさっき言っていたような状況ならば、今日も休校になっているかもしれない。
(スマホも荷物も、学校に置きっぱなしだ)
いろいろなことが起こりすぎて、荷物のことなど忘れていた。あの日、旭に出ていけと言われた蒼生は、胃痛と吐き気に苛まれながら、朦朧としたまま岐路についた。
あのまま自宅に帰ったところで、鍵も無かったはずだから、律や白石に救われなければ、最悪の結果になっていただろう。
(これから、どうなるんだろう?)
そんなことを考えながら、蒼生はリビングの向こうに見える庭の雪景色をぼんやりと眺めた。
この地域で、こんなにも雪が積もるなんて珍しいから、きっと交通系はかなり混乱していることだろう。立派で広いこの邸宅は、律が一人で住むには広すぎる気がするが、ここがいったいどこなのかも蒼生はまだ聞けずにいた。
(律さんは……優しい)
隣に座る律の横顔をちらりと見上げ、やはり整った綺麗な容姿をしている……と、蒼生は思う。
今朝、目覚めた時には、律に抱きしめられていた。
「おはよう」と囁いた律が、額へとキスを落としてくるのを自然な流れ受け入れたあと、昨晩晒した自身の醜態 を思いだし……蒼生の顔はみるみるうちに青ざめた。
直後、そんな蒼生の不安な心を読んだかのように律は微笑み、「昨日はよく頑張ったね」と、優しく背中を撫でてくれた。
それから、着替えを手伝ってくれた律は、まだ階段は危ないからと言いながら、蒼生の体を軽く抱き上げてダイニングへと運んでくれたのだ。
(あと何日か、そうしたら……)
迷惑ばかりかけている事実に気づいた蒼生は、抑制剤が飲めるようになれば、すぐに出て行こうと考える。だから、律の優しさに馴れてはいけない。
「……蒼生?」
ふいに、自分の名を呼ぶ声が聞こえ、蒼生はあわてて思考を止めた。いつの間に話が終わっていたのか? 気づけばカップを手にした2人が不思議そうにこちらを見ていた。
「考え事? まだ一口も飲んでないけど、ホットミルクは嫌いだった?」
「いえ、好きです。いただきます」
またも気を遣わせてしまったことを、申し訳なく思いながら、蒼生は慌ててカップを持ち上げ口へと運ぶ。一口含んで飲み込めば、ホッとするような甘みが広がり、何度かそれを繰り返したあと、蒼生は思わず「美味しい」と呟いた。
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